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第八章・7
カフェの窓際の席からレストランを見ていた樹里は、徹が出て来る姿を見つけると、席を立った。
「待たせたな。退屈じゃなかったか?」
「いいえ、そんなに待ってはいませんから」
徹は、腕時計を見た。
ランチには、少し早い時刻だ。
「どうしようか。事務所に戻って、デリバリーでも頼むか」
「僕、この先に美味しいお蕎麦屋さんがある、って調べました」
「実に有能な社員だ」
そんな、他愛もないことを言いながら、徹は樹里と共に駐車場へと歩いて行った。
その背中を、先ほどのレストランの主人が恨みを込めた目で見つめ続けていたことなど、知る由もなかった。
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