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第十章・3

 手術中のランプが消え、術衣を着た毛利が出て来た。  徹はその姿に、跳ねるように立ち上がった。 「毛利、樹里は?」 「安心しろ、手術は無事に終わった」 「助かるんだな!?」 「後は、経過観察だ。容体が急変しない限りは、大丈夫だろう」  出血が派手だったので心配したが、動脈は無事だった。  神経も傷ついていなかったので、後遺症の心配はまずないだろう。  後は一か月ほど入院してもらって、回復を待とう。 「……って、おい。聞いてるのか、綾瀬!」 「助かった……」  助かった。  樹里の命が、助かった。  それはおそらく、私の命も助かったと同じだろう。  彼を失ってしまったら、私の生もありえないのだから。 「良かったな、綾瀬」 「恩に着る」  樹里はその後病室に移され、徹の看病の元で治療に専念することとなった。

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