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第十章・5

 それにしても、樹里くんの回復が早いのには驚いた、と毛利はカルテを軽く弾いた。 「今日からリハビリを、と考えていたんだ。歩く練習を、始めよう」 「大丈夫なのか、歩いても。無理は絶対にさせるなよ!」 「解った解った。ホントにお前は、この子に関しては盲目になるなぁ」  そんな大人の漫才を目にしながら、樹里は思い出していた。 『樹里、私の背中の竜を、今お前に吹き込んでるからな。だから絶対に、助かるからな!』  きっと僕の中には、綾瀬さんの竜が棲んでいるんだ。  だから、こんなに早く傷もよくなったんだ。  毛利から聞いたことだが、徹は多量の輸血までしてくれたという。 (綾瀬さんの血が、僕の体に)  その血に賭けても、早く退院しよう、と樹里は考えていた。

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