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第十一章・5
「今日は、大切な話がある」
コーヒーを飲み終え、徹はやけに改まって樹里に向き直った。
「何でしょう」
無防備な、樹里の反応。
徹は、瞼を閉じた。
可愛い、樹里。
離したくない。
手放したくはないが。
「実は、君の描いた絵を鑑定に出して、売った」
樹里は、小さくうなずいた。
数ヶ月かけて書いた、数点の作品。
あれに、値が付いたのだろうか。
以前、綾瀬さんが『100年に一人の天才』だなんて、褒めてくれたけど……。
「総額で、1千万円を超えた」
「い、1千万!?」
徹は、指を組んで続けた。
「これで、樹里のお父さんの借金は完済されたよ」
「僕の絵に、そんな価値が……」
「君を縛るものは、もう何もない。今後の道は、好きにしていい」
今後の道、って。
好きにしていい、って。
綾瀬さん、どういう意味ですか!?
樹里は、激しく動揺した。
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