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第十一章・7

「綾瀬さん、僕の気持ちは、聞いてくれないんですか?」  樹里は、涙をぽろぽろ零しながら、切れ切れに訴えた。  むせて、途中で喉を詰まらせながら、訴えた。 「僕は」  徹が、暗いまなざしでこちらを見ている。  その視線を受け止めながら、樹里は訴えた。 「僕は、これからも、綾瀬さんの傍で、絵を、描きたいんです」  カフェでの徹、事業家としての徹、そして、樹里の前での徹。  いろんな顔を見せてくれた綾瀬さんだけど、僕に見せてくれる笑顔を失いたくない。 「綾瀬さんのこと、カフェで会った時からずっと……、好きでした」  そしてそれは、私も同じなのだろう、と徹は考えた。  おそらくカフェで声をかけた時から、私は樹里に一目惚れしていたのだ。  でなければ、ここまで深くは愛せない。   徹は、髪をかき上げた。 「解って欲しい。私はこの通り堅気じゃない。一緒にいては、樹里のためにならないんだ」 「僕は、綾瀬さんのために、絵を描きたいんです!」  薄暗い人生に明かりを灯してくれた、綾瀬さん。  ヤクザだって構わない。  僕は、綾瀬さんのことを、愛してるんだ!

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