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第十二章・2

「泣くな、もう。いや、泣かせたのは私だな。すまなかった」  しゃくりあげる樹里の手を、撫でた。 「君一人に大事な赤ちゃんを任せるのは、心配だ。私も、傍に居させてくれ」 「綾瀬、さん……」  傍に居たい。 「私はもう、樹里がいなくてはダメなんだ」  馬鹿だった。  今頃、樹里を泣かせてようやくそのことに気づくとは。 「結婚してくれ、私と。生涯の伴侶として、君を守らせて欲しい」 「赤ちゃんも、です」 「そうだったな」  徹は微笑み、樹里もようやく涙を拭いた。 「名前が要るな! 姓名判断で、最高の画数を持つ名前を決めよう。それから、服! ベビー服なんて、初めて買うぞ。ベッドも要るな! ミルクも、おもちゃも、靴も、おむつも!」  やけに気の早い徹のはしゃいだ声に、樹里は声を立てて笑った。 「そうだ、樹里。君はいつも、そうやって笑っていてくれ」 「綾瀬さん、ありがとうございます。綾瀬さん、あり、が、と……」  悲しい涙が、嬉し涙に変わった樹里だった。

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