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第十二章・4

「絵画には、タイトルが付いているものだろう。この絵のタイトルを、私は知らない」 「それは……、ちょっと恥ずかしいです」 「恥ずかしいタイトルなのか? 18禁になるような?」 「違います、もう!」  だったら、と徹はやんわりと樹里の耳を食んだ。 「教えてくれ」 「タイトルは……、『初恋』です」  徹の脳裏に、カフェで会っていた頃の樹里が思い出された。  学生?  住まいは?  バイト楽しい?  そんなことを尋ねては、淡い喜びを噛みしめていたっけ。 「私の初恋は、樹里。君だよ」 「綾瀬さん?」 「君に会いたくて、毎日カフェに通った。懐かしいな」  その言葉に、樹里の胸ははちきれそうだった。

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