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第7話 納得出来る事、出来ない事
驚いた顔をした雄大は、歩みを止めた誠実と匠の側へ人ごみをかき分けて寄ってきた。
サングラスをして、顔を隠しているが間違いない、雄大だ。
「匠、お前まだ誠実と一緒に居たのか」
眉を顰め、匠に苦言を呈す。前から、自分の幸せを優先しろと雄大には言われていた。
が、匠の幸せはやっぱり誠実の側にしか無くて、どう言ったものか、匠は苦笑するばかりである。
「雄、それ一体どういう意味?ていうか、何か用?」
用ってお前な、と雄大は誠実に対し呆れた顔をしたが、誠実の方は気にも留めてない。
そもそも、こんなに仲が悪かったっけ?と首を傾げるが、匠の覚えてる中では仲のいい兄弟だった。
内心匠が首を傾げていると、雄大の側に居た番さんと目が合う。
「えっと、初めまして?雄大の番さん」
「はっ、はははっ、はじ、はじめ、は、はじめまして、あっ、ああ、あし、葦名、葦名、こ、こここ、こうす、幸助、幸助、です」
おどおどとした話し方に、少し驚くが匠はすぐにニッコリと笑う。
どんな子だとしても、雄大の番なのだから。
葦名、と名乗って居る苗字を聞き、幸助が人見知りだから雄大は籍だけ入れたと前に言っていたことを思い出す。
つまりは、誠実の義兄に当たるのだが……。
「俺の事は雄大から聞いているかな?」
どことなく、年下の子と話すような口調になってしまう。
幸助は、匠の言葉に首を横に振る。
そっか、と匠は幸助に対して手を差し出した。
「俺は、広崎匠。匠って呼んで。よろしく、幸助君」
詰まりながらも、よろしく、と幸助は匠の手を握り返して来た。
その事に、何故かやり切った感が匠の中に産まれる。
それは、幸助も同じだったようでとても目が輝いていた。
「なぁんで匠ちゃんが雄の番と仲良くなってるわけ?」
それに気が付いた誠実が、匠の肩から手を回し、のしかかるように体重をかける。
おもい、と抗議しても中々匠の上から退けようとはしない。
キッと匠が睨みつければ、面白いものを見つけたようにニヤッと笑う。
「誠実っ!」
「分かったよ、もー」
全く、と誠実がしぶしぶ匠の上から退けると、はぁ、と匠はため息を吐く。
相変わらずだな、と雄大が苦笑しているが、のしかかられた首をゴリゴリと回せば、ん?と眉を顰めた。
「ん?匠、それどうしたんだ?」
手を伸ばされ、反射的に半歩下がった匠。
伸ばされてきた手の向かう先が、今の匠にとってはとんでもない鬼門である。
そもそも、番が居るとは言え、雄大は誠実じゃないアルファだ。触られれば、どうなるか予想も出来ない。
知識としては知っている。オメガにとって、その噛み跡と言うのは性感帯でありながら、同時に急所でもあるから。
他の、番以外のアルファに触られると体調に異変をきたす。軽いパニック状態になるのはまだましの方だと。
そんな伸ばされてきた手は誠実が叩き落とした。
「何するんだ、誠実」
「雄こそ、匠ちゃんに何する気?セクハラでしょ」
冷たい瞳で、誠実が雄大を睨む。
それにオロオロとする幸助と、一人何故か冷静でいる匠。
だが、その所為で雄大には匠の項に付いたそれが見えたらしい。
「……っ、おっまえ、匠に何をっ」
「匠ちゃんは俺の。雄には関係ないよ」
雄大が、感情的になって誠実を殴ろうとしているのが見て取れて、匠は思わず誠実をかばう。
「俺も、納得してる事だから。雄大が怒る事じゃない」
真っすぐに匠が雄大を見るとしばらくの後、はぁ、とため息を吐いて怒りをどこかに逃がすかのように視線を逸らした。
その事に、緊張で体に力を入れていた匠も同じように息を吐く。
ふと、誠実の事を見れば、誠実は匠の事を何故かぽかん、としたような顔で見ていた。
何で?と匠が首を傾げるけど、答えは分からない。
まぁ、とりあえずこのままここに居たところでまた何が起こるかもわからない。
匠は、誠実を促して帰ろうと背を押した。
「……後で事情を教えろよ、匠。それに誠実も」
「あぁ、時間が出来たらな」
あまり、説明したくはないが説明しなければならないだろう。
今の匠の状態も、誠実とのことも……。
ため息を吐き、これからの事を考えると何故か気が重かった。
何せ、匠はオメガになった事、誠実と番になった事をまだ誰にも打ち明けてはいなかったのだから。
ただ、都合で仕事を辞めた事だけを伝え、それ以外を一切伝えていない。
オメガになった事は、会社とそして誠実だけが知っている事実だ。
匠の親は、根っからのベータであり、オメガを嫌悪さえしている。
そう言う人だっているのだ。真が居た頃だって、そう。真と遊ぶことをあまり良しとははしていなかった。
だが、雄大にバレてしまったという事は何れ親にも伝わるという事で。
バレてどんな反応を示されるか分かったもんじゃない。
もしかすると、引きはがされるかもしれない。
それだけは何としても阻止しなければ。
お前はベータなのだから、と引き剥がされた所で、匠の体はオメガに変化してしまって居る。
そして、オメガは番なしでは生きられない。
それを、もう匠は嫌というほど理解している。
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