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第12話 好きという言葉よりも
「どうして匠ちゃんはそういうこと言えちゃうの?」
泣きそうなぐらいかすれた声が、匠の耳に届く。
強く抱きしめてくる誠実の背を、なだめる様に叩けば、少しだけ拘束が緩まった。
「俺は……俺はね、匠ちゃんだけは離してあげられないのに」
「俺だけは?」
「もう匠ちゃんしか、居ないの。雄も両親も、真が居なくなってから変わっちゃったから。匠ちゃんしか、俺の事気にかけてくれないでしょ」
変わったのはお前だ、とかいろいろと言いたいことはあったが、誠実の言葉に耳を貸す匠。
誠実の両親や雄大が腫れものを扱うように誠実へ接するようになっていったのを匠は知っている。
知ってたからと言って、どうすることもできなかったけど。
「だから、匠ちゃんが誰かのものになるのが許せなくて、俺だけのオメガにして……どうして、恨んでないなんて……」
「……お前は俺に恨まれたいのか?」
「恨まれたいわけないじゃん。でも、恨まれても仕方がないとは思ってる」
とんでもない、と言うように匠を抱きしめたまま誠実は首を横に振る。
その動作に、匠はくすり、と笑ってしまう。
「なら、良いだろ?俺はお前を恨まないよ……きっとこの先、何が起こっても何をお前がしても、俺がお前を恨むことはないと思う」
「何で?なんでそう言い切れるの?」
「……何でだろうなぁ?でも、俺はお前を放ってはおけないから。どんなことをされたって、最後まで……お前が俺を必要としなくなるまで傍にいるよ」
依存、なのかもしれない。
放っておけない、なぜなんて分からない。いつの間にか好きで、なんで好き、なんて分からない。
匠にとって、誠実はもう自分の一部であり、切り離して考えることができない。
それでも好きで、誠実に生きて欲しくて、誠実が誠実足ればいいと匠は考えている。
ほかの誰が何を言ったところで、もう変わり様もなく匠は誠実におぼれていた。
それは誠実とて同じこと。
ただ、お互いに言葉は少ないから伝わってない部分も多々あるということで。
「俺が匠ちゃんを必要としなくなるって、なんだよそれ!?必要としなくなるわけないだろ!!」
「まさ、み?」
ぎゅうぎゅうと締め付ける様に匠を抱きしめる誠実。
涙が溢れているのか、匠の肩口が濡れ始めるが誠実が離す様子は一向に訪れない。
「言っただろ?俺にはもう匠しか残ってないんだって!信じられないかもしれないけど、匠が居れば、それでいいんだよ!匠が、俺のモノでここにいて、俺のそばにいて……俺だけを考えていればそれでいいんだよ……」
「なんだよ、それ……」
ふっ、ふふっ、と匠から笑い声が漏れる。
誠実は真剣に自分が伝えようとしているのに、と思って体を離して匠をにらめば、匠は泣きそうな顔をしながら笑っていた。
「今日って、何なの?こんな……こんな嬉しい日なんてほかに知らない……」
そっと匠の手が誠実のほほへと延びる。
誠実の存在を確かめるようにゆっくりと頬をなでて、にっこりと笑う。
ぼろぼろとあふれ出した涙などお構いなしに、うれしいな、と匠は笑うんだ。
「……お願いだから、俺の知らない間に俺から離れていかないで。俺の知らないところに行ってしまわないで。浮気なんて絶対にしないから。もう二度と、ほかの人としないから。匠もほかの人に触らないで。匠が居なくなったら、俺は生きてけない」
「大げさだな、お前は。でも、お前みたいなやつ、放っておけるわけないだろう?」
困ったように笑う匠。誠実は、眉を下げて叱られた子犬のよう。
実際、誠実の中の一部は真が死んだときから止まっていたのかもしれない。
匠は、それも全部わかって、わかった上で誠実を放っておけないし、好きだから。
「絶対だよ、匠」
「わかってるよ、誠実のことを置いて行ったりしない。ほかの奴に触らせたりもしない。お前だけだ」
叱られた子犬のようだった誠実が一転して嬉しそうに笑う。
そうして、匠と唇を合わせた。
触れるだけで、お互いを確認できるようなそんな、キス。
まだ、お互いに好きだなんて言わない。いや、言えない。
ただ傍にいて欲しくて、傍にいたいのだ。
それだけで、良いと思って。
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