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第13話 幸せの定義は人それぞれ
あれから数日後の事。
匠は、とあるカフェで人を待っていた。
待たせたな、と変装してやってきたのは誠実の兄である雄大。
そう、あの日詳しく聞かせろ、と言うことで今こうして話をしに来たのである。
「忙しそうだな、雄大は」
「まぁ、ね。それより、お前の話だ」
帽子を脱ぎ、コーヒーを注文した雄大が匠へと向き直り聞く。
誠実と、雄大の番は今日は居ない。誠実と雄大がそもそも今は水と油のようにそりが合わない。
だから、喧嘩になっても困るし、誠実は置いてきた。
そして、この問題に関係ない雄大の番は来る必要がない。
そうじゃなくとも、あまり人の多いところは好きではないし、他人が苦手という雄大の番。
だから、あの日だって久しぶりに二人で出かけられたんだって言っていた。
言っていたのは、雄大の番である幸助だが。あの日、幸助と匠は連絡先を交換しており、それなりに仲良くなっていた。
「あぁー、どう言えばいいのか……まぁ、手っ取り早く説明すれば、俺がオメガになって誠実と番になったってことぐらいか」
「……お前が、オメガに?なんの冗談だ……」
「冗談じゃないんだよ、それが」
匠は頼んだ紅茶を一口啜り、ふぅと息を吐く。
コーヒーは家で淹れて飲むため、匠が外で頼む飲み物と言えば専ら紅茶類になってしまった。
コーヒーは誠実が嬉しそうな顔をして、おいしそうに匠の淹れたものを飲むから、だんだんとこだわってしまっただけなのだが。
「誠実に、あまり詳しく話すなって言われてるし、あんまり話せることもねーんだよな。それに、この件に関しては、俺よりも誠実の方が詳しいし……」
「……それで、オメガになってまで、まだ誠実のそばにいるのか?」
「言っただろ、雄大。俺は誠実の番なんだよ。それに、良いんだ。傍にいたいのは俺も一緒だから」
「だからって、アイツはっ」
「今はもう、昔のようなことはしてないよ。それに、誠実は俺のモノだから」
うっすらと笑う匠。雄大は、息を詰まらせた。
その笑みが、歪みそして恐怖を抱くような、そんな笑みだったからだ。
きっと、それは誠実には匠が絶対に見せない笑み。
「誠実は、俺が居ればいいって言う……お前も、それに誠実の両親も俺たちの関係をとやかく言う資格はないだろ?」
だって、誠実は手放された子だから。
腫物を扱うようにして、その実、誠実に触れないようになった家族など、と匠は笑う。
それでも、雄大と交流を持つのは、幼馴染だからだ。
そうでなければ、匠は雄大とすら交流を断っていただろう。
「……誠実を、嵌めたのか?」
「何言ってんの、雄大?なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ。俺がオメガになったのは、アイツのせいだし。そもそも、ベータだった俺がどうやってあいつを嵌めるって?俺を望んだのは誠実自身だよ」
清々しいほどの黒い笑みに、はぁ、とあきらめを含めてため息を吐く雄大。
その実、匠は番になってからもこんな感情を持っていたことはない。
けれど、数日前知ってしまったから。
「お前がこんな奴だったなんてな。全然知らなかった……誠実とどうするつもりだこれから」
「とりあえず、俺の両親に話さないととは決めてるけど?」
「……その方が問題なんじゃないのか?」
雄大も、匠の両親についてはよくわかってる。
だからこそ、怪訝そうな顔をして匠を見た。
その表情にけらけらと匠が笑う。
「なんだその顔。本当にモデルかよ?ぶっさいくだな」
雄大や誠実の顔へ文句を付けれるのは、古今東西探したところで、匠だけだろう。
一般的に見れば、そうして眉を寄せていた所で、雄大や誠実の顔は端正と呼ばれる部類に入るからだ。
雄大もそれには苦笑するしかない。幼馴染の匠ゆえだと。
「まぁ、何とかなるだろ。俺は誠実と離れるつもりもないし……誠実も、俺の事を離さないって言ってくれたし」
「……お前はそれでいいのか?それで、幸せなのか?」
「何それ?あー、でもそうだな。幸せだよ、ほかの誰に理解されなくたってな……ほんっと、叶わないと思ってたモノが叶うのなら、ほかの何を犠牲にしたって幸せなんだよ」
分かんないだろうけど、と今度は儚げな様子で匠が笑う。
でも、その顔は本当に嬉しそうで、だからこそ切なそうにも見える。
「なぁ、雄大。お前は幸せって何だと思う?」
「は?」
「俺はね、好きな奴と一緒に死ぬまで居れて、好きな奴が俺を見て、俺もそいつを見て、世界に俺たちしか居なくなったって、傍にそいつがいて笑ってればそれで幸せだなって思えるよ」
排他的で、実に空虚な幸せだと、瞬間的に雄大は感じた。
そして、その幸せというのが実現されつつあると、雄大は少し苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。
そんな匠へ、何を言うか十分に悩んでから雄大は口を開く。
「……お前がそれで良いなら、俺は何も言うことはない」
それだけ吐き出して、はぁ、とため息を吐く雄大。
雄大も結局は幼馴染という関係に甘いのだった。
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