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第14話 最果てを夢見る二人は
雄大と話した日、誠実は帰って来るなり不機嫌だった。玄関で、匠を迎えた誠実に匠は首をかしげるしかない。
どうやら携帯にGPS機能がついているらしく、匠が家を出れば誠実へ連絡が入るようになっていて、匠が外で誰かと会ったことを知っていたのだ。
もちろん、それが誰かまではわかってないけれど。
匠は、誠実をなだめるために先ずはリビングへと移動し、ソファーに腰を下ろして、雄大と会っていたのだと懇切丁寧に、日時を決めたメールまで見せて説明する。
誠実に浮気をするな、と言っておきながら匠自身が浮気を疑われるなどあってはならない。
ましてや、浮気するなんてないだろう。
雄大と会ってから帰って来るまで一直線だったし、どこにも寄り道はしてないと言えばしぶしぶ理解したようだ。
ほっとして息を吐き、体の力を抜けばその瞬間を狙っていましたとばかりに、誠実が匠を抱きしめる。
「うぉっ、どうしたんだ?」
「うんん、何でもない。ただ、俺って嫉妬深いなぁって思って」
ずるずると滑り、誠実はうつぶせ状態で匠の膝に落ちる。
そんな誠実に苦笑しながら、匠はその後頭部をゆっくりと撫でた。
しばらく、二人無言で誠実は動くこともしない。誠実は、匠の匂いを感じ、匠は誠実の温もりを感じて。
ただ、お互いがお互いを感じあえるこの状況。二人だけで完結してしまうその世界。
それだけで、よかった。
少しすると、ぐるり、と誠実が体を反転させると、匠へと手を伸ばす。
匠は、少し驚きはしたけれど、それを受け入れて誠実の手のぬくもりにうっとりと瞳を閉じる。
「匠ちゃんは、誰の?」
「今さら何を……、俺はお前のものだよ、誠実」
ゆっくりと瞼を開き、匠がそう答えるだけで、酷く嬉しそうに顔を歪める誠実。
その顔に満足してしまう匠も匠でゆがんでいるのだろう。
いや、歪んでしまった、というのが正しいのか。叶わないハズの恋が叶ってしまったから、狂ってしまった。でも、そこまで好きになれる人がいるということも、逆に言えば幸福なのかもしれないが。
突如起き上がった誠実。その誠実に手を引かれて、匠は誠実のベッドへと共に足を運ぶ。
ベッドに押し倒され、上にのしかかられる。
それが苦しくないと言えばウソになるが、嬉しそうに笑い、匠の名前を呼ぶ誠実を前にすると、匠には何も言えなくなってしまう。
降りてきた顔を合わせキスをして、なだれ込む。
それは、発情期以外の久しぶりの交わり。
それも、ベータであった頃、匠が想いを自覚したあの時から全くなかった、本当に久しぶりの。
どうして、あの検査をした後から誠実が匠に手を出してきたのかは知らない。
けれど、手を出されずに悩んでいたことも考えれば、この状況は匠にとってもうれしいことだった。
”早く、子供ができればいいのに”
互いに、思っていた。お互いを、強く、強く縛り付けるために。
そのための、子供という手段。子供を愛することは可能かもしれない。
けれど、それは好きと言える相手がいてこそで。
だからこそ、匠も誠実もお互いの子供が欲しいのだ。
お互いの血を引き合う、唯一無二が。
相手を引き剥がさないように、引き剥がされないように。
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