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第15話 この親にしてこの子あり

 それから数日後。匠と誠実は、匠の実家へと足を踏み入れる。  誠実は、にこにこといつも通りだが、匠は少し緊張した面持ちで出迎えてくれた母親と対峙する。 「待ってたわ、匠。久しぶりね」  まったくこの子は、顔をみせにも帰ってこないで、と匠の母が言いながらあら?と首をかしげる。  匠はこの数日前にいつ帰る、とだけ母にメールを打っていたのだ。そこに誠実の名前は一つもない。 「えっと、誠実君?雄大君?」 「あっ、誠実です。お久しぶりです、おばさん」 「そう!いらっしゃい」  にっこにこしながら、誠実はペコっと頭を下げた。  匠の母は、未だに雄大と誠実の区別がつかないらしい。  まぁ、見た目だけはそっくりだからぱっと見、見分けられないのは仕方がないがそれでも、息子の幼馴染だ。  いい加減、見分けられてもおかしくはないのだけれど。  上がって、上がって、という匠の母に誠実と匠はお互いを見て少し苦笑しながら中へと入る。 「相変わらず仲がいいのね?」  リビングのソファーに腰を掛けると、彼女はお茶を淹れてくるわ、と席を立つ。  その間に、なんだ来ていたのか、と匠の父が奥からやってくる。  定年を迎えたらしく、家にいることの方が多いようだ。 「匠と誠実か?そろってどうした?」  対面するソファーに腰を掛けながら、匠の父が問う。  匠は、そろったか、と息を吐いた。  何故か、誠実はとても楽しそうだ。 「大事な話がある。母さんも聞いてくれ」 「なぁに?大切な話って」  ちょうど、お茶を淹れ終えたのか、匠の母も机へとお茶を置きながら匠へと向き直る。 「俺誠実と番になったから」  一息に言えば、少し時が止まったかのように静まり返る。  その中で、誠実だけがにこにこと笑っていた。  匠が誠実から何があっても離れることはない、と知ってるからこそ、その反応だ。  たとえ、実の親に引き剥がされそうになったとて、匠は絶対に誠実から離れることはないだろう。 「う、うそ、よね?あ、あなたはベータですもの。そうよ、番なんてエイプリルフールでもあるまいし、酷い冗談だわ」 「嘘じゃない」  酷く動揺する母に、匠は項の噛み跡を見せる。  その噛み跡は、いくつかつけられているが、一つだけ他の噛み跡と違うものがある。  ボンドバイトの痕だ。  それは、生涯癒える事のない傷。  アルファの番が居るという証。オメガの、証。  匠の母は、その傷跡を確認するや否や、酷い叫び声をあげて、匠から距離をとる。  そんな両親に匠は苦笑いだ。 「どういう、事だ?お前がオメガになど」 「詳しく説明するつもりはない。けど、俺はベータじゃなくなったから。それだけ言いに来た」  それじゃ、と席を立つ匠。  誠実は匠についていく。  後ろから、匠の父の怒鳴り声が聞こえてくるが、完全に無視。  いや、立ち止まったところで、何も話せることがないのだ。どうしようもない。  自嘲しながら玄関を出ると、匠はどんっ、という衝撃に体をそらせる。 「えっ……?」  振り向けば、匠の母がそこにいて。  俯いて、つぶやく。  匠、ちゃん?という誠実の声も耳をすり抜けていくほどに、驚き、目を見開いた匠。 「オメガ、なんて……世間様に顔見世できないじゃない」  仄暗く困ったように笑う母を最後に、匠は衝撃と痛みで気を失った。  誠実の断末魔を聞きながら……。

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