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第16話 アルファの報復、本能

 side:誠実  匠の家を出て、すぐに匠の体がぐらついた、と思ったら後ろには匠の母親が居て。  その衝撃の正体を知ったのか、匠は倒れこみ、すぐに意識を失った。  匠の母は手に、包丁を持って困ったように立ち尽くしている。  わけが、わからなかった。 「あっ、あぁあ、あっああああああああああっ!!!!!!!」  誠実の断末魔が響き、近所の人々がわらわらと集まってくるが、誠実は気にしてる余裕はない。  番が、傷つけられたのだ。  黙っていられるアルファなど、居ない。  気が付いた時には、匠の母の首をつかみ、コンクリートの地面へと打ち付け、首を絞めていた。 「お、お前たち何をしている!?」  ひゅー、ひゅーと息をしながら、睨む誠実にリビングの方からやって来た匠の父はひっ、と後ずさる。  救急車の音が聞こえてくるが、誠実はやめる気配もない。むしろ、その息の根を完全に止めようとしていた。  アルファの、報復である。  実際に目にする人は少なくなったが、それでもなお、アルファの報復、という行為があることを誰もが知っていた。  知っていて、匠の母は誠実の番である匠に手をかけたのだ。報復の対象として、これ以上はない。  頭を打ち付けたせいで、彼女の頭からは血が流れだすが、まだ生きているといわんばかりに誠実は攻める。  救急隊員に声をかけられたところで、正気に戻る様子はない。 「アナタの番でしょう!?」  と声を張り上げられて、ようやく誠実の意識が戻ってくる。  匠の母から手を離し、救急車に乗せられた匠のそばに座り手を握る誠実。  もう、口からはあ、しか漏れてない。  病院はすぐに見つかったみたいで、救急車は動き出す。  落ち着いてください、と声をかけられたところで誠実の耳に入ることはない。  誠実の頭にあるのは、目の前の匠だけ。  搬送先の病院で、手術室の扉に阻まれ、誠実はその扉の前で呆然と立ち尽くす。  どれくらいの時が流れたのだろう?  誠実!と後ろから声を掛けられ、振り向けば、雄大がそこにはいて。 「酷い顔だな」  と苦笑した雄大は、その場から動こうとしない誠実を引っ張りとりあえず近くの椅子へと座らせる。  憔悴しきった顔で、ボンヤリとただ手術室の扉を見ている誠実。  それでも、雄大はどうしろとは言わない。  言われたって、誠実が聞きっこないことを知っているから。  幸助が同じ目にあったら、きっと雄大だって同じようになってしまうだろうから。  そこから、さらに少し時が進み、手術室の扉が開いて匠が運ばれていく。  追いかけようとした誠実を雄大が引き留めた。  担当してくれた医者は、匠の手術は成功したという。  後は、本人が目を覚ますだけだと。  よかった、と雄大はほっと息を吐く。  まぁ、誠実には聞こえていないみたいだが。  早く匠のところに行きたいと雄大を引き剥がそうとする誠実。  その誠実を引き留めて、雄大は話を聞く。  今、匠がどこにいるのか、どうすればいいのか。入院の手続きなどは、雄大が代わりにしてくれた。  誠実は、今の自分に何ができるかなど考えるわけもなく、ただ傍にいたい、それだけ。  それも、仕方のないことなのかもしれない、と雄大は思う。  誠実にとって、この病院というのはある意味恐怖の象徴でもある。  死が、隣に潜んでいる、そんな印象……。  史実、誠実の運命であった真は、病気のせいで病院で亡くなったのだから。  番である、匠が居るのも嫌なはずだ。  可能な限りべったりと匠にくっついていた誠実。  匠が目覚めたのは、それから二日後の事だった。

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