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第18話 運命など持たない二人

 それから数日後、通院は必要になるらしいが、退院をした匠。  退院の日は、誠実が迎えに来てくれた。というか、毎日毎日誠実は匠のもとを訪れている。  仕方がないな、と匠が受け入れてしまうのもあるのだが。  仕事はどうした?と問えば、大丈夫大丈夫、しか返ってこないから不安になるというものだ。  その不安は的中することとなるのだが。  匠がオメガとなった薬が、会社にバレた。被験者は匠しかいなかったが、その薬が外に出回れば大変なことになると、会社の重役たちはカンカンである。 「あはは、どうしようか?」 「どうしようかじゃねーよ。どうすんだ?」 「うーん……たぶん、日本では認められないだろうし……いっそのこと海外でも行っちゃう?」  楽観的に話す誠実に、はぁ、と匠は頭を抱えた。  まるで旅行に行こうか?ぐらいの軽いノリである。  ちょっと待っててねぇ、とパソコンを持ってきた誠実は以前仕事で付き合ったこのある会社のホームページを開く。  そこも製薬会社であり、そこのお偉いさんに気に入られているらしい誠実。  そこならばすぐに再就職ができそうだという。  匠は、この国にこれ以上とどまるメリットと、海外の会社に移るメリットを考えて、ふむ、と頭を抱える。  どちらがマシか、という問題か。下手すれば、匠の身も実験材料にされてしまうかもしれないと考えれば、答えなど決まっていた。  そもそも、誠実の提案をあまり断ったり匠にはできない。それで、誠実を傷つけた過去を持つから。  すぐに手配を初めて、誠実にもその会社で本当に働けることになるのか、ちゃんと確認をとるように言い、匠はその国の移住状況も調べる。  まぁ、仕事先さえ決まり、運よく永住権を取得できれば御の字だ。  まぁ、最近は永住権をくれる国も少なくなってきてるけど。  人口が増えすぎている国は特に。  相手方の社長が何とかするって、返事を誠実がもらい、あの事件から数か月後、親しい人物にだけ行き先を告げて、日本を出国した。もちろん、幼馴染で双子の兄である雄大には行き先は話してある。協力だってしてもらった。雄大は、本当に誠実や匠に甘い。  甘やかしてはいけないとわかっているのだろうけれど、結局のところ本当に甘いのだ。だからこそ、誠実も反発はしても嫌いにはなれないし、匠も幼馴染としても友人としても付き合っていけるのだろう。 「ごめんね、匠ちゃん。日本を離れることになっちゃって」  少し気にしたように誠実が、しょんぼりと飛行機の中でいう。  匠は、そんな誠実の頭をぐちゃぐちゃに撫でまわす。 「バーカ、今さら何言ってんだ?それに、俺がお前に恨み言を言ったことが一度でもあるのかよ?」 「ない、けど……俺についてきたら、匠ちゃんまで……」  匠がその先を言わせまいと、人差し指を誠実の唇へと押し当てる。  誠実は少しだけ驚いた顔をして匠を見る。  そんな顔に、匠はくつくつと笑いながら言う。 「どこまでだって落ちてやるよ、お前が俺を傍に臨む限りどこまでも……それがたとえ、奈落の底だとしてもな」 「ふっ、ふふ、きゃー、俺って愛されてるぅ」 「今さら気が付いたのか?」  ふふん、と匠が笑えばくすくすと誠実も笑いだす。  あぁ、幸せだとこんな瞬間に感じるのだからどうしようもない。どうしようもないけど、どうしようもなく歪んでしまっているけれど、本当に幸せなのだ。  運命など持たない二人だけれども、この先の未来はきっと幸せであふれている。  そう、信じて……。   「……空は、今日も青いな」  ふと、匠が窓に目を向ければ、雲の上の青い空が。  代り映えもなく、ただただいつもの日常のように。  何れそれが、普通、となっていくように。 「お布団干したら、気持ちよさそうだねぇ」 「ふっ、ふふ、ふふふっ、そう、だな」  二人、これからも離れずに歩いていくのだろう。  そう、下らないことも、バカバカしいことも何だってやって。  それでも、一緒にいるのだろう。  お互いしか、要らないのだから……。 END

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