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第19話 おまけ きっかけ

 移り住んだのは、大国アメリカ。数年後そこで、ビザを取得し、誠実は働き匠と暮らしていた。  誠実が開発した薬は、日本では案の定、危険ドラッグと認定され規制されている。まぁ、誠実しか作り方を知らず、そのデータも会社を出るときに吹っ飛ばして来たらしいから、再現できる人はいないらしいけど。  渡って来たアメリカでは、成分を調整し、セックスドラッグ、一夜限りのオメガを楽しむものとして販売されている。  成分がそのままの薬も販売はされているが、医師の診断、番や運命を失ったアルファであること、受け側の同意書などが必要とされるほど、厳重に管理されていた。  もちろん、誠実のパソコンも誠実自身も製薬会社に厳重に守られている。  そんな二人のもとへ、雄大を経由して同窓会のお知らせというものが届く。  その数日前に、匠の高校時代の友達からメールで同窓会が開かれることは聞いていた。  まぁ、この住所を告げるわけにもいかず、雄大に送ってくれれば届く、とメールを返したのだが。  色々な意味で濃い高校時代だと、少し思い出に浸りつつ、もうすぐ誠実の帰って来る時間だから、と気持ちを入れ替えた。  送られてきたのは、二通。  葦名誠実宛の出欠確認の案内と広崎匠宛の出欠確認の案内。  それを、とりあえず相談しないと、とリビングの見える場所に置きつつ、夕飯の支度だ。  この国で、日本食を作ると何かが違うといった通り、やっぱり何か違う。  何か違うだけで、作れないことはない。  丁寧に料理をして、この国の料理も覚えてそれなりに食べれるようになってきた。 「ただいまぁ、匠ちゃぁあん」  玄関から、誠実の声が聞こえてくる。  おかえり、と玄関の方に顔を出せば、ただいまぁ、ともう一度言いながら誠実が匠に抱き着く。  今日もお疲れ、と匠はその頭をなでてやる。  誠実は、こちらに来てから抑制剤もまた新たに作り出し、バース関連の薬については一躍有名になってしまった。  そのため、研究しているとき以外はとても忙しい。学会などに引っ張りだこだ。  その学会なども、まぁ出席する場所は選べるが、絶対に出席しないといけないのは、出資者や後援者のいる場所。誠実はそれが苦手らしい。  一言、端的に言えばにこにこ上辺だけの腹の探り合い、誠実のアイディアをどうにか引き出そうとする会話が。  そして、何より匠と婚姻しているというのに、新しいオメガとか紹介されるのが一番いやだという。  まぁ、その話を聞く匠も嫌だけれども、知らないのはもっと嫌だから不機嫌になりながらも聞くしかない。  スーツを着てる誠実に着替えて来いよ、と言って匠は背を押し、もう少しで出来上がる夕飯の準備を再開する。  はぁ、とため息を吐いて、匠は夕飯のバケットとスープを用意して、メインの魚を。今日は、洋風だ。  そこまで用意すると、誠実が着替えてラフな格好で出てくる。  誠実の愚痴を聞きながら、ディナータイムだ。  そうして話していて、あっ、と匠が思い出したように言う。 「……あっ、そう言えばこの間言ってた同窓会のはがき、届いたけどどうする?」 「あぁー、そう言えばそんなのもあったねぇ……どうしようか?うーん、久しぶりに帰るのもいいかもね?」  リビングの机に投げてあった封筒を取りに行き、誠実に手渡す。  ぺらぺらとそのハガキを揺らし、どうでもよさそうに誠実はそれを見ている。  ただ、久しぶりに帰るというのは本当の事で、雄大は何度かこちら側に遊びに来ていたが、誠実たちは一度として日本の地を踏んでいなかった。  一時帰国か、と匠は先ほど確認し忘れた日時を確認する。 「……何とか、一時帰国するにしても大丈夫だろ」 「うん、俺の方も問題ないよ」  スマフォを片手にスケジュールを確認していたのだろう、誠実はうんうん、と頷いてスマフォをポケットにしまう。  なら、出席か、とその辺に置いてあるボールペンでさっさと『ご』を消し、出席に丸を付けた。 「明日、帰りがけに出してこようか?」 「あー……、頼むわ」  はいはーい、と誠実はそのハガキを鞄の中にしまう。  匠は、それを見ながら数年ぶりの日本に思いをはせた。  あまり、いい思い出がぱっと出てこないのは、人間の脳が悪い事を印象的に覚えているからだろうか?

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