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第23話 アルファの格

 匠たちは気にせず、少し移動して話を再開していたのだが、少し固まった面々が歩きやってくる。  匠は、そのメンツを見たとき、はぁ、とため息を吐いた。  アルファとその崇拝者の集団だ。  もちろん、変人と言われた誠実の姿はないし、雄大もそのグループには属してない。彼らはアルファ至上主義者で、オメガ否定派だ。  運命の番が居る雄大が、そのグループにいるはずがない。 「よーお、広崎」  絡んできた男の腕を払いのける。  リーダー格のよく知らない男だ。  高校でも何かと話題になっていたみたいだが、その男よりも誠実の方が匠には大切だったから。 「ひでぇな、オメガになったんだろ?アルファの俺に逆らっていいとでも?」  ゲラゲラと下品な笑い声が響く。  不快になって、匠は眉をひそめた。  ため息を、これでもか、とわかりやすく吐く。 「俺は、番が居るし、そもそもアルファだからと従わなきゃいけないという法律も何もない。思い上がるな」 「なっ!」 「相崎さんがお前の相手をしてくださるというのに何が不満なんだ!!」  周りの取り巻きが、ぎゃあぎゃあ騒ぎ出すが、匠はひるむ様子を見せない。  そもそも、こんな連中がアルファだなんて程度が知れると。 「俺には番が居ると、さっきから言ってるだろ?そういうプレイを楽しみたいなら、風俗でも行けよ」 「はぁ?そんなこと言っていいのかよ?お前の番って、あの葦名だろ?」  にやにやと下品な笑いを浮かべる彼らに再度ため息を吐きたくなった匠。  こいつらは、誠実の過去を知っているのだと。面倒なことに、と。 「だから?」 「お前も何れ捨てられんだろ?なぁ?」  匠の周りにいたメンバーにそう同意を求める相崎。  彼らは、とても微妙な顔をして匠から目をそらしてしまった。  それに関しては、昔の誠実が悪いと匠はたいして気にしてない。  そもそも、悪いのは友ではなく、絡んできたこの馬鹿なアルファだ。 「そうなったとき、誰に助けを求めるんだ?俺が助けてやろうっていうんだ、素直に従っておけばいいだろ」 「誠実は俺を捨てない」 「そいつは大した自身だな、おい」  相崎の手が再び匠に伸びてきた。  匠はにらみつけ、瞬きもせずにそれを避けようとしたところで体を止める。  ぱぁんっ、と派手な音を立てて相崎の手は叩き落され、匠は抱き寄せられその腕の中にとらえられた。 「匠ちゃん、大丈夫?」 「あぁ、平気だ。お前は良かったのか?こっちに来て」 「うん。大丈夫、あらかた話はしたし」  にこにこと、周りの人など居ないかのように誠実は笑い、匠を抱きしめた。  その背を、あやすように匠は叩く。  ナチュラルないちゃつきっぷりである。 「で、こいつら何?」 「あぁ、オメガ否定派の馬鹿なアルファとその取り巻きだ」  へぇー、と心底興味なさそうな声が誠実から漏れる。  匠は、お前が聞いたくせに、と苦笑いだが。 「てめぇ……」 「バカみたいな事してないで、そんなにオメガが嫌いならかかわらなきゃいいのに」  ホント、バッカみたい、と誠実は冷たい目でそう言う。  オメガが何のために生まれ、そしてどうしてアルファと番になれるのか、全くわかっていない、と。 「それにさぁ、俺の番に手を出そうとしたんだよね?それって、俺に殺されたって文句は言えないよね?」  にや、と笑えば、誠実の周りは一歩離れていく。  匠はそんな誠実を見て、はぁ、とため息を一つ零した。 「珍しいな、おい。お前が、番に執着するなんて」 「何が珍しいのかどうか知らないけど、匠ちゃんは俺のだし、お前いい加減にしないと……潰すよ?」  アルファ同士のにらみ合いとは、ここまで壮絶な雰囲気になるものかと、周りが息を飲む中、匠は逆に感心してしまった。 「お前が?俺を?冗談はよせよ」  相崎はそう笑う。誠実はその侮辱に対して何とも思ってはいないみたいだ。  匠は、アルファの格などわからないが、少なくとも相崎より誠実が劣っているようには見えなかった。 「冗談?いつ俺が冗談を言ったの?ねぇ、君が笑ってる場合じゃないでしょ?」  そう言いつつも、誠実は匠を離して相崎のそばに行こうとはしない。  まぁ、まだ怒りの沸点は越えてないだろう誠実が、直接手を下しに行くことはないだろうけど。 「この俺を潰せるほどのアルファかよ、お前が!アルファの出来損ないとまで言われたお前が!」 「だから?ねぇ、本当に分からないの?お前が、俺を馬鹿にしてるその意味。本当に?」  段々と、誠実のフェロモンが流れ出していく。冷たく、いつもの感じは全くしない、怒りに満ちたそれ。  ふと、匠が誠実を見るが、誠実は相崎を見つめたまま。 「俺が、何時お前の下についたって?俺のどこがお前に劣っているって?相手を正確に測れない奴が、俺の上?笑わせるなよ」 「はぁ?そりゃ俺のセリフ……」  ふっと、息をしたところで、相崎は言葉を止める。  野次馬の中には、倒れこんでしまう人も続出していた。  誠実の濃いフェロモン、それも怒りと殺気をのせたそれは、一般人にはとてもじゃないが耐えられる代物ではなかったらしい。  その中で、平然と立っているのは誠実より格上のアルファや、耐性のあるアルファやオメガだけ。  あとは、雄大がとても不機嫌そうに誠実たちを見ているということか。  雄大は基本的に、誠実と双子でアルファの格としても同じだ。それ故に、そんな殺気じみたフェロモンを受けたところで倒れるはずもない。  それに対して相崎は、だらだらと汗を流し、ひゅうひゅうと息をしながら誠実をにらみつけている。  力の差は歴然だ。 「……お、まえ」 「誠実、何をやってるんだ」  近づいてきた雄大が、相崎の言葉を遮り、誠実を叱る。  ちっと舌打ちした誠実は、そのフェロモンを次の瞬間には、ぱったりと止めた。  相崎にとっては、雄大が救いに見えたのかもしれないが。 「雄、邪魔するなよ」 「別に邪魔したくてしたわけじゃない。場所を考えろって言ってるだけだ。こいつ以外に、どれだけいると思ってる。お前のせいで、軽くパニックだぞ」  周りをよく見ろ、と軽く誠実は頭を叩かれた。  が、あまり気にせずぶっすーとした顔で匠を抱きしめて視線を逸らす誠実。  匠は苦笑いをして、雄大と目を合わせ肩を竦めた。 「お前らも、いい加減にしろよ。アルファがどれだけ偉いと思ってんだ?思い上がるのもいい加減にしろ」 「あ、しな、あに……たすか……」 「俺たちは確かに上位種のアルファじゃない。けど、お前ほど、歪んだ考えを持つアルファでもない。何を考えてるのか知らねぇけど、お前らの行動は、番のいるアルファを敵に回すようなもんだぞ?お前を助ける?寝言は寝てから言え。この場にいる他のアルファもおんなじこと思ってるよ、それほど番ってのは大切なものだ」  アルファなのにこんなことも知らないのか?と相崎たちを雄大がにらみつける。  誠実は、もう興味もないと言ったように匠にじゃれついていた。 「そんな考えだから、オメガなんかが付け上がるんだ!!オメガなど、鎖で縛り閉じ込めて、ただアルファを生む道具にしてしまえばいい!!」  話の通じない奴だ、と雄大はため息を吐いた。  差別のある発言だと、周りから侮蔑の視線が相崎へと集まる。

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