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第4話
*
コケコッコー!
大音量でわざとらしい朝がやってきたので、びっくりして目を開けると枕元で鶏が鳴いていた。
コケコッコー!
イグサを毟りながら鶏が部屋を横切る。
「あ、ごめん、上がっちゃった?」
繋ぎの男が窓から侵入し、座布団で鶏を叩き潰そうとする。鶏は素早くかわす。何度か繰り返すうちに、鶏は羽をまき散らしながら外へ出て行った。
繋ぎの男が「ふぅ」と息を吐き、
「おはよう! 俺、JA青年団の代表で来た明治っす。こいつら卵産むから3匹とりあえずプレゼントね」
「……」
おはようの時間なのだろうか。
まだ外は寒いし、薄暗い。何もすることはなかったので早めに寝たが、朝日より早く起きるのはなんだか三文の損だ。底厚のマットレスは意外に沈まず寝心地がよかった。明治と名乗った男はお構いなしに話を続ける。
「昨日役場の方から連絡があって、どうもなにひとつ準備してない人が来てしまったらしいって連絡受けてさ」
庭に投げ出されていたリュックと箱を縁側に引き上げた。
「身体ひとつでいらっしゃ~いとか、ホームページに書いちゃダメって俺は言ったんだけどねー」
シャツやらズボン、サンダルに長靴など、それぞれいくつかを広げて見せる。Tシャツを広げてサイズ感を確認し、手渡されたので、なんとなく着替える。スーツのまま寝てしまったので、とにかく着替えたかった。
「お兄さんは田舎どこ?」
「…世田谷」
「へぇ、世田谷って東京でも金持ちが住む区域でしょ。すごいねー。じゃあ、お兄さんはIターンだねぇ」
明治が目を輝かせて言うが、いまだに路面電車の無人駅だと言うのも、めんどくさいので頷くだけにする。
IとかJとかUとか種類に意味はあるのだろうか? そんなことを聞いたら、公募で来たことを疑われるかもしれないので黙っていた。スマホがあれば、wikiれるのに…。
「農家に憧れってやっぱ、都会の仕事に疲れちゃった感じ?」
頷く。ああ、そうかと徳重はようやく納得をした。Iターンで農業支援。農業を始める人に家付きで支援するというのはこういうことを言うのかと。
「でも普通は体験してから決めるのに、この村にいきなりきちゃうなんてすごいねー」
電話から3日も経ってるからてっきり今回もすっぽかしだと思ってたのに。言いながら、明治の顔には「疑ってますよー」と書かれていた。嘘をつくのは容易い。
「体験して不安があると踏ん切りがつかないだろうからよ。全部捨てて、もう転身するって決めて何があっても粘るって気持ちの方がいいかと…」
スックと明治が立ち上がるので、応戦するべく徳重も立ち上がった。
パチパチパチ。
明治が拍手する。
「すンばらしい! トシさん喜ぶと思うよー。後継者がいなくて、どんどん畑を縮小してきてたけど」
トシさんヨシさん、昨日聞いたな? やはりお笑いグループではないようだ。
「トシさんの農作物はなんでも大きくて一味違うって、道の駅で出しても人気なんだよ。でも年が年だから最近どんどん畑を小さくしていてねー。トクさんが手伝ってまた手広くできるようになったら、うちのJAも息を吹き返すよー」
「…トクさん?」
「あれ? シゲさんって言われた方がいい?」
明治が徳重を指さして聞いた。
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