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第6話
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卵があっても油がない、調理器はあっても菜箸はないので料理はできなかったが、ちょっとずつ助けてもらって生活ができるようになっていた。金を払おうとすると必要なものは村が揃えるから大丈夫といって、明治やヨシさんは受け取らなかった。20万を持ってよその町に移るつもりだったことを忘れていた。
トシさんの畑で、草の刈り方や、種の巻き方、作物の取り扱いなんかを教わり、ヨシさんに笑われながら作業する。ヨシさんに作物の区分けや洗い方、梱包の仕方を教わっていると、村の子供がやってきて「へたっぴ!」とゲラゲラ笑った。
最初はいちいちムカついていたが、知らないことがあることが面白くなってきた。
枯れた根っこと岩だらけの区画を掘り返して柔らかくし、ミミズが戻ってきた。勝手に生え出した雑草に苛立ちながらまた掘り返していると、苗の柵をトシさんが持ってきた。
「アッハッハッハ。ついに畑だ」
後ろでヨシさんが笑う。日に焼けた腕に米粒ほどのバッタが止まった。吹き飛ばして立ち上がる。時計はない。ヨシさんが来たら昼だ。
「これ、帰りにもってけ」
お茶だのシートだのの準備にかかると、コの字ブロックを指さす。ヨシさんはなんだかんだ毎日、徳重のために持ってきてくれていた。
「助かります。庭の畑もだいぶ育ってきましたよ」
自宅の荒れた庭にも畑を作った。種をまいたら、放し飼いに鶏に全部食われたが、土砂よりに網を張り、畑区画を作って種をまいた。土砂の向こうは竹林だが、庭をわかっているのか、鶏は放し飼いでも出ていかない。
ヨシさんにもらった種を適当にまいた。さやえんどうだか、枝豆だか、できてみないとなんの種だったかわからないが、日々成長する緑をみると、ちょっとした満足感を得ていた。小松菜とほうれん草が競争するようにちびちびと成長し初めていた。トマトがなかなか伸びないというと、ヨシさんは「寝かせ植え」の方法について丁寧に教えてくれた。
手を洗って、腰のタオルを…ああ、今日はなかったと思って手を振ると、ヨシさんが首をかしげる。
「洗濯物が度々なくなるんすよね」
物干しざおに干してあったTシャツが一枚なくなった。洗濯ばさみを使わなかったから風で飛ばされたのかと思ったが、そこらに落ちてはいなかった。そもそも、隣の靴下が飛んでないのだから変か。そもそも貰い物だし、執着はしてなかったが、昨日また、タオルが一枚なくなっていた。村の子供の仕業かとも思ったが、山の中には徳重の家と明治の家しかなく、子供の足で登るには困難な道だ。
家に帰ったら鶏が屋根の上で日向ぼっこをしていた。に…鶏って飛べるのか? もしかすると、やつらに屋根の上に持っていかれたのだろうか。そう思ってもはしごがないので確認はできない。
「卵産むってことはメスだべな?」
「でしょうねぇ」
「女は大切に扱わないといかん。名前毎日呼んでるか?」
「名前? つけてなかった」
「そりゃいかん」
トシさんが深刻な顔でいうので、
「今日帰ったらさっそくつけてやるよ」
横でヨシさんが大笑いした。
だか、翌日も恵んでもらったタオルがなくなっていた。
「鹿かの?」
トシさんが言う。
「狸かの?」
ヨシさんが言う。Tシャツ一枚、タオル一枚を盗む泥棒などいないだろうから、そういう答えになるのだろう。長閑だ。
今日持たされたタッパは茶色い。ヨシさんのクセにラフテーなど作るのだろうか。それともチャーシューか? 開けてみると醤油をたっぷり吸って得体の知れなくなった野菜の煮物だった。ごはんを炊けば食えるだろう。
だが、今朝は明治がラーメンを置いてってくれた。明治は徳重よりもさらに山の中に住んでいるらしい。隣町といっても電車で3駅もあるというところで、オフィスワークをしているらしく、毎朝迎えに来てくれる。九州へ出張に行った人のお土産だといって、袋麺を3つ持ってきてくれた。
ラーメンは都会の味だ。田舎では食えない。必要だと言えば買ってきてくれるのかもしれないが、農家となると自足自給が基本なのかと思って、調味料以外は言い出しにくい。今日はそれが食べれるのが楽しみで、スキップするように山道を帰ってきた。
「…なんで?」
3つ置いたはずの袋が1つしかなかった。
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