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第10話
*
「……」
昨日の焼肉の残りで朝、牛とじ丼を作ろうと思っていたのに、焼いた肉がきれいになくなっていた。
静かに卵かけご飯を食べて家を出た。明治が鼻をほじりながら車で待っていた。無言で助手席に乗りシートベルトを締める。一つめのカーブに差し掛かった時に明治が口を開いた。
「何怒ってんの?」
「幽霊に、昨日の肉食われた」
キッ。車がつんのめって転がり落ちるかと恐怖を覚え、思わず足と手を伸ばし掴まれるところに掴まる。
「あっぶねぇな…」
「ちょ! こ…っあああ」
明治が壊れたように悲鳴を上げるので一発殴ってみた。久々だったのでまともにテンプルに入ってしまい、鼻から綺麗な色の血が流れ落ちる。椅子を倒して、タオルを当て、水を飲ますと息を吹き返した。明治は今なにがあったのかということよりも、恐怖に襲われている。
「ねぇねぇ、それってそれって…それってぇぇ!!」
落ち着こうとしながら、どんどん興奮していく明治の鼻をつまみ、落ち着けと言ってみる。
「シゲさん、昨日の話聞いてました?」
「うん? 母親が風呂場で死んだって話?」
「そそそ。それ、母親が出たってことじゃないですか?」
「…どっちかっていうと、見つからなかった子供が…」
「わああああ!」
明治が白目をむいて気絶した。見つからなかった子供が実は生きていたって話なら、幽霊云々ではないのに。皆まで聞かず明治は昇天してしまった。
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