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第11話
*
氷があったかもしれない。とりあえず家に戻ることにした。
するといつもと違う湿気を感じた。
…あれ? 湿気というか、湯気だ。風呂場を覗く。
「……ん?」
風呂場は最新。ミストサウナはないものの、湯舟も壁もタイルもカビの生えない乾きやすい素材でできているので、昨日使ったとしても、翌朝にはキレイに乾いている。なのに、まるでたった今使ったかのように、床も壁も水滴を含んでいた。
幽霊がシャワーを浴びますか?
いいや、むしろ行方不明の子供の確立が高まったな。そう思いながら、目を凝らすと、水滴が足跡よろしく廊下にポツポツ落ちていた。
音を立てずにゆっくり跡を追うと、明治がしきりに気にしていた押し入れの前で、水滴はなくなっていた。徳重に所持品はないので、押し入れに入れるものはない。最初の日に見たように、押し入れの襖を開ければ、なにもない棚が上下にあるだけのはずだ。
タン!
襖を景気よく開けるとそこには生脚があった。
以前なくしたTシャツから白い生脚が生えている。首から上は天井に突っ込まれていたが、黙ってみているとゆっくりと下がり、顔が出てきた。手は天井に引っ掛けたままだが、サルでも鹿でも狸でもない。若干、人より白く見える。昨晩見た白い影はコレだろうか。
「……」
目が合っているのに黙り続けている。なんだ? 白い肌だが、髪からは水滴が落ちている。シャワーをたった今まで使っていたのはこいつだろう。
「てめぇ。何者だ?」
「……えっと」
白い顔が小さな声を出す。中学生でも声変わりはするだろうか? すね毛もヒゲもまるで目立たないし、むき出しの肉は柔らかそうだ。若くは見えるが膝を見ると10代ではない。臨床試験師ではないが、大体首と膝を見れば、男女共に年齢はわかる。目を細めて続きを待つ。
「……えっと…ざ…座敷童…」
そう聞いて、徳重は一瞬口をあんぐり開けた。
「…へぇ。座敷童」
「…そう。座敷童」
首を90度に曲がりそうになるほど首を傾げながら、奥歯を見せて笑うと、座敷童もつられたように口角を上げた。
「うわっ」
とりあえず、膝に腕をかけて引っ張り出す。
うん、人肌だ。思いながら敷きっぱなしの布団に放り投げると、Tシャツがふわりとめくれ、同性の証しがチラリと見えた。妖怪に性別はあるのだろうか? ヨシさんに聞いておくべきだった。
座敷童が慌ててTシャツの裾を引っ張り股の間まで下げる。シャツが水を吸って胸元の色味が透けて見えた。
ムラムラした。昨日つまらないAVを見たせいか、ここしばらく忘れていた感覚に襲われた。
「あのな……!」
一瞬の間に不信を覚えたのか座敷童がなにか言おうとする顎を掴んでみた。
くっと首を振って座敷童が強く睨み返してきた。…そそる。
払われた手を胸元に滑らせて、透けた乳首に重ねる。
「…ッ!」
掌の位置をずらすと、指の股に突起の存在を認識する。指を開かずにこすり上げると、硬く反応した。
「…ちょっ…!」
払い退けようと手が動くのを見逃さず、Tシャツの裾にもう片方の手を押し入れる。太腿の内側をスルリと滑る。柔らかい。スキやクワでできたマメまでその感触を味わうように、ビリビリと脳髄に伝わった。
「……!」
指の股で捕まえた胸の突起を親指で押さ込み、強く摘まんでみたが、座敷童は声を上げないように唇をかんだ。その仕草がたまらない。脚の根っこを掴み引き寄せると、反応し始めた股間に座らせ、強く乳首を攻める。
「…っう」
片手で内股から膝をゆっくりと往復しながら、脚を開かせる。それでも声を出さないようなので、乳首に爪を立ててみた。親指と中指で摘まんだ乳首に人差し指を立てる。グリグリと揉みながら押し込むと息が震えた。
「…ぃ……」
乾ききっていない髪の毛が胸元を濡らす。人肌が懐かしくて嬉しくてたまらない。手をクロスして、両手で胸を掴みTシャツの上から揉んだ。女のような柔らかさはないが、弾かれる筋力に満足する。さっき睨んできた目もよかった。耳の裏に舌をあて、首を舐める。
「ッ…」
声を出すものかとでも思っているように、強く息を飲む感じが伝わってきて益々痺れる。手を組みかえてコリコリとした突起を両手で攻めると開かせた白い両足が震えた。右手で肋骨をなぞりシャツをまくろうと…
「わっ!!」
突然のデカい声にびっくりして、狭い布団の上から転げ落ちた。
この中途半端な高さのマットレスはケガしかねない。ところで今の声は? 見上げると顔をしかめながら座敷童がこちらを向いた。
驚かすって、ある? キっと強い目で睨まれた。
「座敷童だって言ってるのに、いきなりそういうことする人っている?」
「…いけねぇのか?」
目線を感じて座敷童が胸元を両手で抱くようにして隠してしまった。
「なんで帰ってきたわけ?」
「あ…。明治が…」
そういえばほったらかしだ。
「朝っぱらからこんなことしてて、あのエロ兄さんに見られたらどうする気?」
「どーなる?」
立ち上がって縁側を除くが幸いエロ兄さんはいない。まだ車の中で意識を失っているだろう。
「……人に見られたら…消えちゃう」
キョロっと横を見て、座敷童が俯いた。そういうものなのか。
「人? 俺は?」
座敷童がムスっとした顔で「他所の人」と付け足した。なるほど、家人に富をもたらす妖怪だから、他所の人にばれちゃいけないのか。妖怪には妖怪の掟があるのか、つか、座敷童って妖怪?
距離をつめてしゃがむ。
「じゃ風呂場で続き…」
胸を蹴られて再び転がった。クリーンヒットだ。肺が潰れるかと思った。
「仕事行け」
蹴りを入れた足を前に、膝に肘をついて言う座敷童は見栄を切る歌舞伎役者のようで格好よい。だが。
「一発やらないと収まらない」
手をついてにじりよってみるが、睨みつけている表情に変化はない。
「収まっているように見えるが?」
あくまでも強気だ。人の股間を見る余裕まであるようだ。
「仕事してる間にバックレるだ…」
「!」
言い終わる前にとびかかる。無茶苦茶に暴れる両手を掴んで、ポケットから出した結束バンドで両親指を結んだ。くせでつい、作業中のものをポケットに入れてしまう。農業用具は案外気の利いているものが多い。
「てめ…」
喚こうとする口を塞ぐ。
「可愛い顔して、乱暴な口を聞いちゃいけねぇよ」
睨みつけてはくるが、抵抗する気はないのか、息遣いが静かになった。
「俺も仕事には行きたいが、このまま行くことはできねぇ。だが、きっとこのまま続きをすると、きっとエロ兄さんが戻ってきて参加したがると思うが、それでもいいか?」
押さえ付けている顔が少し横に触れた。
「俺が帰ってくるまで待っていてくれるっていうなら、これ以上縛ったり閉じ込めたりはしないが、どうする?」
待ってます、というバカはいない。縛るといっても椅子に縛っても縄抜けされそうだし、閉じ込めるといっても風呂場も隣の部屋も大人なら簡単に脱出できる。大人? 座敷童。逃げたら、たった20万しかもってないのに、また一文無しになってしまうのだろうか?
皮膚が吸われる感じがあったので、慌てて押さえていた手を放すと、はぁと息苦しそうに息継ぎをして、座敷童が睨み返してきた。
「まだ、ここを出るわけには…いかない…」
言い淀んで、声が小さくなった。ん?
「逃げない。待ってる」
囁くような声だ。顔を近づけると、はぁと息を吹きかけられ、おとなしくなった股間がまた騒ぎそうになった。やっぱり歯ブラシもちょろまかしてやがる。
「…信用…していいのか」
座敷童が妖艶に笑う。
「キスが、うまければ」
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