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第15話

   * 「相性がいいっていうのはこういうことかもしれねぇよな」  溜息で座敷童にあしらわれる。 「人間じゃないのが残念だ」  眉間にしわを寄せて睨まれた。脱力したように投げ出した身体をピクリとも動かさず、座敷童は顔だけこちらに向けている。隣で眠れるなんてありがたい。トロンとしそうになるのを我慢して、口を動かす。 「どうやったら結ばれるんだ?」  真剣に聞いてみると、座敷童はまた溜息をついた。 「仕事が終われば、立ち去るのが俺のルールだ」 「…座敷童の仕事ってなんだよ?」  座敷童が目を閉じる。言うか言わないか迷うように長考が続いた。 「立ち去っても幸せに暮らせる財力を、家人に与えることだ」  幸せに暮らせる財力?  「財っていってももらった20万しかないから、まだまだだなー」 「…今ある金銭とは限らない」  今開拓している畑だって、手伝っている老人だっていずれアンタの財力になるだろ? 小馬鹿にするような調子で座敷童が言う。そんだけで納得できるか。口を尖らせると、考え込むようにして座敷童が続けた。 「例えば、昔誰かから預けられたものが、実は金になるのに、忘れているとか…」 「…預けられた?」  片桐の顔を思い出した。目敏く座敷童が食いついた。 「あ、心当たりあるね?」 「いや、預かってくれって言われたんだけど、持ってるだけでいろんな人に狙われそうだから断ったものがあって…」  それかなぁ? あれはどこかの部屋の鍵だ。組の抗争がいよいよかってほどピリピリしているときだった。早耳の手下から薗田のところの武器庫がごっそりやられたらしいって聞いた、そのすぐあとだった。 「俺には別の用事があるから預かってくれって、兄貴分に言われたんだ」  座敷童は片肘を枕について、こちらを向く。薄いタオルケットが胸元を滑り落ち、さんざん愛撫した箇所を晒す。目がどうしてもそちらに行く。 「…それで?」  思考回路が血流に乗って下半身に移動しそうになるのを遮るように、冷たい声で促された。戦争始めるって言ってるのに、『別の用』ってかっこいいなと思った。 「俺にも別の用があるからって断った」 「……」  座敷童が凝視する。 「…あれ、金になったのかなぁ?」  座敷童が瞬きもせずこちらを睨んでいる。 「あ」  今更、思い当たった。  意味不明な1億4000万って盗まれた武器の金額? 俺が盗んだと思われてたの? あ、それで武器商人の女社長の方も近寄ってきたのか?  ぱたっと倒れるように、座敷童は枕に顔を埋めると、肩を揺らして笑った。 「あんたには、ここの暮らしが似合ってると思うよ」    *  翌朝起き上がろうとしても起きられなかった。  腕が背中に回っている。左手が右手を握っている。多分であるが、親指には結束バンドが巻かれている。引っ張ろうとするたびにひっかかりを感じる。  起き上がろうとすると、胸のあたりに油性マジックで大きく「バカ」って書いてあった。 「…ああ」  座敷童は行ってしまった。いなくなってしまった。悟ると起きる気になれなかった。  いつもより遅い時間に痺れを切らした明治がやってきて、悲鳴を上げた。

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