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3rd 魔法にかけられて

本当に、些細な。 くだらない理由でのケンカだった。 タオルの端をキチンと揃えてたたむとか。 使ったコップは、流しに置いてとか。 日頃の鬱憤を、一気に爆発させてしまった僕も悪い。 僕から淀みなく流れ出る鬱憤を、聞き流せなくなった忍が顔を真っ赤にして僕に言った。 「なんだよっ! 思ってることがあったら、すぐ言えばいいじゃん!! 流唯なんか..........流唯なんか、猫になればいいんだっ!」 「........なっ........なんで猫なんだよっ!」 「猫は流唯みたいに、いきなり怒んないよっ!それに大人しくてかわいいし! 流唯は、かわいいけどかわいくないっ!! だから、猫になってしまえばいいんだって言ったんだよ!!」 「意味わかんないよっ!」 「もういいっ!」 一緒に住みはじめて、初めての大ゲンカ。 僕はベッドに。 忍はソファーに。 大ゲンカが尾を引いてしまって、その日は初めて別々に眠った。 気になって、眠れないし。 大きな声を出したから、頭が痛い。 なんだか、体も火照って熱っぽい。 なんなんだよ....まったく。 僕は、最低の気分のまま、目を閉じた。 なんか、へんな感じがする....。 朝起きたら、いつもとは違う違和感。 耳が色んな音を拾って、こそばゆい。 腰の下の方が、なんか重たいし、パタパタ........布団の中で音がする。 気になって、パタパタする音の正体を手で探る。 .......!!........ なに?!これ!? 猫みたいな、柔らかい毛並みの感触........。 僕は飛び起きた。 慌てて布団をめくる。 .........シッポだ。 僕に、猫みたいな、黒くて、しなやかなシッポが生えてる........。 ひょっとして....この変な耳の感覚も........。 僕は飛び起きて、慌てて鏡をみる。 「わっ!....わぁ....」 思わず、声が出てしまった。 ........耳が..........猫だ。 忍が、昨日変なこと言うから。 〝猫になればいいんだっ!〟なんて、言うから。 忍の呪い.........忍の言霊が。 半分だけ叶ってしまって、僕に猫の耳と、猫のシッポが生えている。 ....どうしよう....外に出られないよ。 と言うより、まず忍に顔をあわせられない。 『..........流唯。どうしたの?大丈夫?』 さっきの僕の声で、心配した忍が部屋の向こう側にいる。 「だだだいじょうぶ!大丈夫!なんでもないよぅ..........なんでもないから!」 なんで、〝絶対、大丈夫じゃない〟声で答えちゃうんだよ.........僕。 忍のことだから、忍勘がいいから.........。 『絶対、大丈夫じゃないだろっ!流唯!ここ開けて』 って、言うと思ったよ.........。 忍が力を込めて開けるドアを、僕は必死でおさえる。 「大丈夫だから!絶対開けないで!忍!」 『いいから開けてってばっ!!』 バンッ! しの力に負けて、ドアが勢いよく開く。 僕はドアごと吹っ飛ばされてしまった。 「.........いったぁ」 「流唯!!流唯!!大丈夫?!........流唯?....それ....何?....どうしたの?」 忍は、僕を見て、目を丸くして立ち尽くしている。 ..........だから開けないで、って言ったのに....。 ✴︎ たしかに〝猫になればいいんだっ!〟って、言ったよ? 言ったけどさ........。 まさか、本当になっちゃうとは思わないし....本当になってしまえばいいとは思ってない。 本心じゃなかったんだよ....本当に。 しかも、猫耳とシッポだなんて....。 猫としては、中途半端だけど。 俺の萌えポイントを、かなりくすぐってくる。 .........かわいい....んだけど、流唯。 ドアごと吹っ飛ばされた流唯は、真っ赤な顔して、涙目で俺をキッと睨んでいる。 「ごめん、流唯.......俺が悪かった。 悪かったから.... こっちきて。 一緒にどうしたらいいか、考えよう?」 そう言うと、俺は流唯の手をぎゅっと握った。 ソファーに座っている流唯のシッポが、ふらふら揺れてる。 耳は、たまにピクっと動く。 流唯は俯いて、口をキュッと結んで....〝僕、怒ってます〟オーラを出している。 どうしたら、機嫌を直してくれるんだろう....。 でも、スッとしたシッポが、すごい気になって仕方がない。 ついつい、流唯のシッポを触ってしまう。 「!!」 流唯はビクッとして、泣きそうな顔で俺を睨む。 余計........怒らせた.......。 「ごめんって、流唯。あんまりキレイなシッポだったから、つい」 「........今日は、行きたいところ、やりたいこと、いっぱいあったのに......」 とうとう、流唯は両手で顔を覆って泣き出してしまった。 本来ならば....本来ならば、だよ。 ちゃんとここで慰めるんだよ、俺は。 でもさ。 ........流唯の耳が、悲しそうに折れて。 ........流唯のシッポがシュンって、たれちゃったらさ。 もう、どうしようもないくらい、かわいいんだよ。 「.........流唯、かわいすぎるんだけど」 「..........今、それ言うこと?....」 「ごめん!朝ごはん、何食べる?.........かつお節とか?」 「..........ふざけて言ってんの、それ? ..........僕は、真剣に悩んでるのに.........。 一緒に考えてくれるって、言ったよね? ..........ちゃんと、考えてくれてる?....」 「.........ごめん」 今日の俺は、サイテーだ。 何言っても、流唯を怒らせてしまう。 それから一日、流唯はずっと拗ねていた。 俺が何を言っても涙目で睨むか、無視するか。 そのうち疲れて、流唯はソファーで寝てしまった。 小さな顔のキレイな頰には、涙のあとがくっきり残って、その頰に触れると、耳がピクっと動いて、シッポがパタッと反応する。 なんだよ、かわいすぎるんだよ、まったく。 俺は、寝ている流唯にキスをした。 「....んっ....」って、小さく漏れる声に。 俺は興奮してしまってさらに激しくキスをしてしまう。 「....んっ....ちょっ....忍.....」 「流唯、かわいいすぎる。我慢できない」 かく言う俺は、いつも以上に興奮してしまった。 流唯の首筋にキスすると、かわいい耳がペタッと折れたり。 流唯のシッポを触ると、「や....やだ....」って言って、恥ずかしいそうな顔をして、ビクッと体をよじったり。 いつもと違う反応の流唯に、余計、クラクラきちゃって。 結局、最後まで激しくしてしまった。 「流唯、大丈夫?激しかった?」 グッタリしている流唯に、声をかけた。 流唯はゆっくり瞳を開けると、小さく頷く。 俺は流唯の頭を撫でて言った。 「........こんなことになっちゃって、ごめん。 これからは、ちゃんと流唯のことを考えて行動するから。 もし、ずっと流唯がこのままの姿だったとしても、俺はずっと流唯を愛して守るから。 だから、もう、機嫌直してくれる?」 俺の言葉に、流唯はにっこり笑って、流唯のしなやかなシッポが、返事をしてるみたいにパタパタした。 ✴︎ 僕は、体が軽くて目が覚めた。 僕の横で、忍がぐっすり眠っている。 結局、夜までずっと激しかったもんな、忍は。 僕のシッポを触ったり。 僕の耳をくすぐったり。 そんなに萌えるんだろうか? 僕は、猫になってしまった耳を触る。 あれ? ....ない? 慌てて起きて、鏡を見る。 耳も、シッポも、ない....。 ....よかったぁ。 一生、猫耳でシッポの姿だったら....って、覚悟はしていたけど。 僕にひっついていた猫耳とシッポは、まるで魔法にかかってたみたいにフッと現れて、フッと消えた。 ディズニー映画でありがちな、あれ。 お姫様が、悪い魔女に魔法をかけられて....みたいな。 「....流唯........起きたの?....。 あっ!!なくなってる!!」 眠そうな目から、一気に目を見開いた忍が飛び起きて、僕に近づく。 「ちょっと、残念だけど..........。 元に戻ってよかった」 忍は僕の後ろから抱きついて、元に戻った僕の耳たぶにキスをした。 「ねぇ、流唯」 「何?」 「また猫になって欲しい時は、どうしたらいい?」 「..........余計なこと、考えないでくれる?」 そして、僕たちは、お互いを確認するかのように、軽くキスを交わしたんだ。

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