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4th 溺れるクスリ

僕の直属の上司が、錠剤をカッターナイフで削ってる。 この人がやってるコト、久々に見た。 高校の時、先輩が部室でよくやってたな....。 錠剤タイプの下剤を大量にコリコリ、カッターナイフで削って粉状にして、後輩の水筒に入れる。 よくやってた、男子校ならではのイタズラ。 幸い、僕の水筒に下剤が入ってることはなかったけど。 水筒を手にするたびに、ロシアンルーレット的な恐怖は感じていた。 何年って時を経て、デジャヴのように。 しかも社会人になって、こんなガキがするような光景を、目にするとは思わなかった。 「....係長、何やってるんですか?」 「あ、俺さ、錠剤を飲むの苦手なんだよね。 削って小さくして、飲み物に混ぜて飲むんだ」 「....そうですか。大変ですね」 大人になっても錠剤が飲めないなんて、ちょっとかわいそうになってくる。 「宮崎くんもやってみる?」 「........いや、僕は大丈夫です」 なんか、触れちゃいけないものに触れちゃったみたいで、心臓がバクバクする。 「悠人」 「わぁ!....びっくりした。.....なんだ、舷か」 突然、低く響く声で名前を呼ばれて、僕は心底驚いた。 心臓のバクバクに気を取られてしまって、隣に舷が立っているなんて、全然気がつかなかったよ。 舷は明らかに動揺している僕に、怪訝な表情を浮かべる。 「そんなにびっくりしなくても....。 しかも〝なんだ、舷か〟って、なんだよ」 「あははは....ごめん」 「はい、これ。頼まれていた管財業者の資料」 「あ、ありがとう。助かるよ」 「ところで、ワインフェスタ。 今日なんだけど、大丈夫そう?」 「うん。大丈夫」 舷は、同期入社でさ。 話も合うし、気も合うし。 時々一緒に飲みに行ったり、休みの日には遊びに行ったりして。 同期で一番、いや、プライベートも含めて一番信頼できるヤツだから。 一緒にいて、安心する。 「何?君たち、今日ワインフェスタに行くの?」 係長が、僕たちの話に食いついてくる。 できれば〝一緒に行きたい〟とか、言わないでほしい.......。 「はい」 「いいなぁ、俺も連れてってよ」 ほら、きた。 「今日は別な同期も一緒なんで。 係長がきたら、みんな緊張しちゃいますから」 舷の機転の効いた一言で、係長は「つめたいなぁ、君たち」と、言ってまた錠剤をコリコリ削りはじめた。 よかった、あきらめてくれて。 舷はにっこり笑うと「じゃあ、19時に正面玄関前で」って、僕の耳元で囁いた。 「宮崎くん、そろそろ時間じゃないの?」 係長の声に、僕は思わず時計をみた。 18時50分ー。 そろそろ、片付けなきゃ。 「あ、宮崎くん。これあげる」 係長は、僕に小さなドリンクを渡してきた。 「悪酔いしないドリンク。 どうせ、いっぱい飲むんでしょ?」 「ありがとうございます」 「ゴミになるから、ここで飲んできなよ」 「あ、そうですね。いただきます」 その時、僕は違和感を覚えたんだ。 フタが開いてたかも、とか。 なんか舌が痺れるかも、とか。 でも、舷を待たせちゃいけないって、思って。 係長の好意をありがたく受け取らなきゃって、思って。 違和感に目をつむって、ドリンクを一気飲みしてしまった。 「〰︎〰︎〰︎〰︎っ!!」 身体が熱くて、どうしようもない。 頭もクラクラして、ちゃんと立ってられない。 自分の意思じゃないのに、体が疼いて仕方がない....。 僕は思わずしゃがみこんでしまった。 「すげぇな。インターネットのクスリって、こんなにテキメンに効いちゃうんだ」 え....?なんて....? 「俺を仲間はずれにするからだよ、宮崎くん。 ま、遅かれ早かれ、いずれは宮崎くんにクスリ、使ってみたかったんだよね。 だって宮崎くん、俺のタイプだし」 「!!」 係長が、僕の首筋にキスをする....。 なんなんだよ。 なんで、インターネットで買ったとかいう、イカガワシイ薬を僕に飲ますんだよ....。 「や....だ....」 「宮崎くん、かわいい」 係長の手が、僕のシャツのボタンをひとつひとつはずして、僕の体に顔を近づける。 「!!....や!....ん!」 自分でも思うくらい、情け無い声が出た.......。 なんだよ....なんで、こんなオッサンに....感じてるんだよ、僕は。 どうせなら....。 どうせなら....。 こんなオッサンに感じてヤっちゃうより、舷に感じてヤっちゃいたい....。 「た...助けてぇ........舷...........」 その時、僕を苦しめていた、体に感じていたヤラシイ感覚が無くなった。 「悠人!!大丈夫かっ!?しっかりしろって!! .....おい....なんか、飲まされた....?」 舷の声がして、舷の心配そうな顔が目の前にあって、真剣に聞いてくるから。 僕は首を縦にふる。 「助けて....なんか変なんだよ、僕のカラダ....」 僕は舷の腕にしがみついてしまった。 ✴︎ 悠人が遅い。 連絡もない。 いつもは時間ピッタリにくるヤツなのに。 遅くなるときは、ちゃんと連絡をくれるヤツなのに。 ....なんか、ヤな予感がする。 俺は悠人のいるフロアに向かった。 「!!....や!....ん!」 悠人の声....?! フロアに近づくと、悠人の声が....喘ぎ声みたいな悠人の声が聞こえる。 俺はフロアをソッと覗いた。 「!!」 悠人があの係長に押さえ込まれている。 悠人の頰は真っ赤になってて、目には涙を浮かべてて。 はだけたシャツからキレイな肌が見えてる....。 何故か、係長が悠人の体を愛撫している.....。 その時、苦しそうな声で悠人が言った。 「た...助けてぇ.......舷...........」 その声で、俺の体は弾かれるように動いた。 そして、係長に持っていたかなり硬いカバンで殴ってしまった。 ....やべっ....。 直属の上司じゃないとはいえ....結構、いいトコに決まってしまって。 係長は、あられもない格好でノビてしまっている。 俺は、悠人を抱きおこした。 息づかいが荒くて、涙目で。 明らかに、様子がおかしい....。 「悠人!!大丈夫かっ!?しっかりしろって!!.....おい....なんか、飲まされた....?」 悠人が小さく頷いて「助けて....なんか変なんだよ、僕のカラダ....」って、泣きそうに言った。 ど、どうすれば、いいんだ...,。 と、とりあえず、俺ん家に運んで....。 「悠人!もう。大丈夫だから! 俺ん家、俺ん家で少し休もう!」 「....舷....服、ちゃんと.....着なきゃ......ダメ?」 「ダメ!!ちゃんと着て!!」 変なモノを飲まされたせいなのか。 悠人がやたら手がかかる。 シャツのボタンもかけられないし。 1人で歩けない。 タクシーに乗せたら、振動するたんびにヒンヒン言って、タクシーの運転手に変な目で見られる。 自分でそうなりたくてなったわけじゃないのに。 そんな悠人がかわいそうで、思わず抱き寄せてしまった。 「.........悠人、大丈夫?」 「〰︎〰︎〰︎っ!! ...........体が、熱い....。舷、助けて」 悠人が俺に腕を回して、しがみつく。 「....ゆ.......悠人ちょっと待って! とりあえず、シャワーを浴びよう!! ね!シャワー浴びて落ち着こう!な?」 悠人が火照った顔で、小さく頷いた。 脱衣所でへたり込んで座る悠人の服を脱がして、抱えるように浴室に入る。 「....舷............ワインフェスタ....行けなくなって.....ごめんね....う〰︎〰︎〰︎っ......」 悠人が、ポロポロ涙を流した。 そんな、そんな悠人が、たまらなくかわいくて、やらしくて。 「....悠人、俺はどうしたらいい?どうしてほしい?」 「〰︎〰︎〰︎っ!!....シて....シて欲しい....」 頰を真っ赤にして。 瞳にはいっぱい涙をためて。 俺にしがみついて言う悠人が....。 ダメだ、抑えられない....!! 俺は....なんか、電気がショートしたみたいに....悠人に激しくキスをした。 シャワーが俺たちの肌を濡らして....悠人は、それすら敏感に反応する。 指を入れたら、ビクビクするし。 後ろから攻める俺の激しい揺さぶりに、悠人は、浴槽につかまりながら喘いでいて。 それが、俺をまた激しくさせて。 とまんない....。 悠人の中に出して。 また愛し合って.....をずっと繰り返して....。 グッタリした悠人を抱きかかえて、ベッドに下ろすとまた、悠人が求めてくるから。 悠人の身体中を、激しく愛撫して。 また、悠人の中を激しくかき乱す....。 まるで、俺まで媚薬に溺れたみたいに....。 悠人に溺れてしまって....。 一晩中、愛し合ってしまった。 ✴︎ 係長に変なドリンク飲まされて。 身体が重くて、熱くって、そして....疼いて。 舷に迷惑なくらい、舷を求めて。 何回も何回もシちゃって。 僕が、僕じゃないみたいで。 でも、すごく.........気持ちよかった........。 そのうち、意識も遠のいて。 そこからは、あんまり覚えてない。 「悠人?起きた?大丈夫?」 舷の優しい声。 僕の髪を撫でる優しい手....。 僕の身体は軽くなって、昨日のへんな感じが全部抜けてる感じがした。 「どっか、痛いとこない?悠人?」 「....ん、大丈夫。........舷、迷惑かけてごめん」 「悠人は、悪くない。悪いのは変態係長」 舷の〝言い得て妙なネーミング〟に、僕は思わず笑ってしまった。 「よかった....悠人が笑ってくれた。 あんなに激しくしたから、俺のことキライなるんじゃないかって、思ったから」 「....それは、こっちのセリフだよ。 僕がなりふり構わず舷を求めてしまったから.....。 キラわれたんじゃないかって、思っちゃった」 僕の言葉に、舷はにっこり笑って、優しくキスをしてくれた。 「舷が、助けにきてくれてよかった」 「悠人がピンチの時は、いつでも助けにいくよ?」 「ありがとう、舷」 「しかし....」 舷は、バツが悪そうな顔をする。 「係長をヤバい格好で放置してきたからさ.......。 休日出勤してきた人に見つかったら、本当に変態係長になっちゃうかもなぁ」

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