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第3話

 その後は溜め込んでいた話をリョウが一方的に喋り続け、アヤは聴いているのかいないのかわからないような相槌を適当に打っている、そんな時間がしばらく続いた。 「アヤ……退屈?」 「ん」 「俺と話してんの、ちっとも楽しそうじゃない」  正しくは、『俺と』ではなく『話しているのが』楽しくないだけである。もともと会話が苦手なのだから。喋るのが好きでなければ人の話にも興味がない。さらにはこの、画面越しの通話。慣れない上にひどく居心地が悪い。 「ん……どちらかと言えば」  それを正直に相手に伝えてしまうのが、この男なのだ。  ある程度予想はしていたものの、実際に言われてみるとやっぱり落ち込んでしまう。本当は否定してほかったのに。  リョウがやりたくて仕方のなかったことは、アヤにとっては苦痛なことで。わかってはいたけど、今に始まったことではないけれど、堪える。 「そっか……せやんな、勉強の邪魔してごめん」  眉を八の字にして痛々しく微笑う。  まただ。またこの顔をさせてしまった。アヤは気づいた。気づくようになっただけ成長したと言えるかもしれない。リョウという男は困っていても、傷ついても、辛くても、笑う。そしてそんなときはいつも、眉尻が悲しく下がる。 「あの、リョウ」 「切った方がいいやんな。ごめんな。ほな……」  依然笑顔のまま、通話を終わらせようとしている。だけど本人の希望ではないことは明白で。 「リョウ」 「なに……?もう、切るよ」  リョウはリョウで、笑顔を保てるのも、もう限界で。笑えているうちに、切り上げようとしていたのだった。  長い間会えないことには、もう慣れた。仕方のないことだと、それももう後しばらくの我慢だと思えるから、アヤから愛されているという実感をこのところ感じられるようになったからこそ、遠距離交際にも耐えられるようになったのだ。けれども今の状況は、いつ終わりが来るのか。いつになったら、いつものように新幹線に飛び乗って恋人の元へ飛んでいけるのか。そんな不安や心細さを、テレビ通話という形で少しでも払拭したかったのだ。  でもそれが、相手にとって負担だったとしたら。 「ごめんな……」  日頃わがまま放題のように見えるが、根本的には相手に無理させるぐらいなら自分が我慢する性格だ。リョウの笑顔が一瞬、崩れた。 「待って」  抱きすくめられないのがもどかしい。ボタンを押そうとしている手を、力ずくで止められないのが腹立たしい。アヤは何に対してかわからないが苛立った。 「……会いたい、ね」  おそらく互いのすべての感情はここに集結するのだろう。声は聴けても、顔が見えても、温もりは感じない、触れられない。それじゃ、意味がない。 「ちょっと席外す」  早口でそう言い放つと、リョウが画面から消えた。会いたいと言ったのが気に障ったのだろうか、アヤは少し動揺した。

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