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第10話 ストーカーは突然に 3

セックスしろとは言ったけど、奏汰となんてできるわけない。 いや、奏汰にそういう経験が少なくてもし女に慣れていないならできるかもって、抱いてくれるかもって思ってた。 幼なじみの弟だけど関わりなんて希薄だったし、大人しそうでボッチで都合がいいと思った。 奏汰が懐いてきて、おばちゃんにも親切にしてもらって、罪悪感のほうが大きくなった。 だから・・・ 「もうやめるって言ってんだろ!」 俺は煩悩を振り払って奏汰を思いっきり突き飛ばす。 ベッドから落ちた奏汰はゴロンと転がりうつ伏せになって動かなくなる。 「か、奏汰・・・だいじょぶか? 悪い、つい力が・・・」 頭打った!? やべぇっ! 「蓮くん」 良かった。生きてた。 「付き合ってください」 ん? なんて? 「ユカちゃんに浮気されたことより、蓮くんとエッチなことできなくなるほうがショックだよ、僕」 「ゴメンナサイ、ムリ」 「なんでっ!? 僕ユカちゃんと別れるし、蓮くんは男が好きだしなんの問題もないじゃん!」 何でもクソもねえだろ。何言ってんのこいつ。 ベッドから落ちた衝撃で脳みそイカレちゃった・・・? 「だいたい俺、お前のこと好きじゃない」 「正論! 蓮くん、先輩が好きなんだもんね!そりゃ付き合えないよね!」 わかってんなら気を()れさせてんじゃねーよ。 「それでも僕は蓮くんを好きになってしまったかもしれない。だから開発係は誰にも譲らないから!」 床に伏せたまま奏汰が大声で宣言する。 ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺は自分に気がある奴は苦手なんだよ。 ノーマルのこいつだったら、男を好きになるわけないって思ってたから利用したのに。 「奏汰、本当に変な事に巻き込んで悪かった。ごめん、開発とかもうどうでもいいから・・・」 「よくない!」 ガバッと起き上がった奏汰が接近して、ベッドの上で後ずさった俺は壁際に追い込まれてしまう。 「蓮くんはいたいけな高校男児を誘惑して、ホモの道へと走らせたんだ。重罪だと思わない? ねえ!?」 「ちょっ、顔に唾かかってるっ、汚ね・・・」 「唾くらいどうだって言うんだ!お望みなら僕は蓮くんの汚物がついたお尻も舐める覚悟があ」 「望んでねぇっ!!」 狂気的な言葉を吐く奏汰の口を慌てて塞ぐ。 やめろ、やめてくれ。俺を好きなんて怖いし、気持ち悪い事を真顔で言うお前も怖すぎる。 「とにかく責任はとってもらうからね」 「ぐぬぅ・・・」 自分から言い出して奏汰を巻き込んだのは猛省している。でもどう責任を取ればいいんだ? 「付き合うのは諦める。元々好きな人の為に開発しろって言われてたし。だけど蓮くんの開発係は僕!わかった!?」 「うぶっ、・・・あい」 ぎゅっと目を閉じて、顔にかかる奏汰の唾の不快感に耐える。 仕方ない。悪いのは俺だ。こいつがそれで納得するのなら、この際もうとことん開発してもらおうじゃねーか。 「ふ、ふふ・・・」 俺の頷きに納得したのか、奏汰が不気味に笑い出す。 「な・・・んだよ、キモイ」 「ふっ、僕の唾に塗れた蓮くんが可愛いの極みだと思って」 「はあ!?」 恍惚の表情が俺を見下ろす。 「ウソウソ。さーて利害も一致したことだし、続きしよっか」 その顔は絶対嘘じゃねぇ! こいつは伊達に根暗メガネ野郎(元)じゃない。キモイ見た目(元)にそぐわぬ変態野郎だ! 服の袖で顔を擦っている間に布団を剥ぎ取られて、後ろ首を掴まれベッドにうつ伏せに抑え込まれてしまう。 「今日はもぉいいって!」 「だーめ。ちんこおっ勃てるくらい気持ち良かったんでしょ? 扱かなくてもイクくらい気持ち良くしてあげるからね♡」 服を捲り上げられ、背骨に沿って奏汰の唇が這う。 指とは違う柔らかい感触に背中を撫でられて、腰と膝から下が浮き上がるほどの快感。 「蓮くん反り腰だよね。えっろいなぁ」 「ふうッ、 ん~~~っ」 腰椎の辺りに奏汰の呼吸と声の振動があたって、また腰が溶けそうになる。後ろ首を押さえ付けていた手は離されたのに、俺はベッドに突っ伏して気色悪い声が出ないように努めるしかできない。 「もっと下にキスしたらイッちゃうのかなぁ?」 「んんっ!」 首を大きく横に振ると、奏汰は「ふっ」と短く笑う。 「気持ちいくせにイヤイヤしちゃう蓮くん、ほんと堪んない」 下着を下ろされると、腰椎に沿って口付けながら奏汰の唇は下降し仙椎の上を辿る。 1週間前にいじり倒された尻の中が疼いて、もう一度触れてほしい、と思ってしまう。 ビクビクと痙攣するように臀部が動くのを止められない。尾骨に口付けられると、腰だけじゃなく背中まで溶けそうになって、顔を押し付けたシーツが濡れるのがわかった。 嘘だろ俺、泣くほど感じてんの? 自分の後ろ半身がこんなにも弱いなんて知らなかった。こんなにも感じている自分も。 「かな、たっ、あ・・・かなたぁ・・・」 『もっと』も『やめろ』も言えなくて、苦しいくらいの快感を与えてくる男の名前が零れるだけ。 前がはち切れそうなほど勃起して痛くて、ぬるぬるになった下着に擦れ今にも射精してしまいそうだ。 こんな・・・こんなことで、イキたくない。チンコなんか一度も触られてないのに、もしこれ以上開発されたら俺はどうなってしまうんだろう。 期待と不安で頭の中はぐちゃぐちゃだ。 「ひぐぅ・・・ッ、もーやだ・・・こわ、い・・・」 ぬめった感触に尾骨の上の肌を撫でられて、脈打った昂りの先から少量の熱が溢れ出る。 嫌だ。このままじゃ全部出る・・・! ビタッ と窓に何かがぶつかる音がして、俺はハッと我に返る。 同時に快感から解放されて、 「何の音?」 立ち上がった奏汰がカーテンを開けて窓の外を見る。 「なんか窓、汚れてる。鳥でもぶつかったのかな?」 「知ら・・・ね」 そんなのどうでもいい。とにかくイカなくて良かった。・・・ちょっとだけイッちゃったんだけど。 ぐったりとベッドに体を預ける俺を放置して、奏汰は窓を開けベランダに出る。 が、なかなか室内に入って来ない。 「おい、なんかいんの? 鳥?」 声をかけるとようやく戻って来た奏汰が、指で摘んだ薄い膜のようなものを俺に見せる。 「これ。中は水?みたいだけど・・・」 筒状の薄いピンクの膜。その中に入った透明の液体が漏れないように口を結んである。 「え、コレ、こんどーむ・・・?」 「だよね。僕もしばらく考えてたけど、それ以外に見えないよね」 「は!? えっ!? なにキッモ!!」 窓にあたったのはこれなのか? だとしたら誰かが故意に投げたって事になる。 あまりの不快感で吐き気がする。中身が精液じゃないのがまだマシなレベルなだけで、気持ち悪いのには変わりない。 「なんでこんなとこに。蓮くん、何してたの」 「イヤ、どう考えても俺じゃねーだろ! 外誰もいなかったのかよ!?」 「見てくる」 って、ベランダ出てたっぷり時間かけて何してたんだこいつ。アレがコンドームかどうかじっくり確かめてただけか? 普通まわり見回すとかすんだろ。 間の抜けた奏汰に呆れる俺。でもおかげで不快感が少し和らぐ。 「誰もいないみたい。静かなもんだよ、日曜の朝! って感じ」 「あ、そう・・・」 風景の感想は別にいらねぇけどな。 「どうする? いちお警察に届ける?」 「落し物じゃねーだろ。届けるかバカ捨てとけ。んで手洗って来いよ」 うん、と言って水入りコンドームをゴミ箱に落とした奏汰は部屋を出て行く。 嫌がらせ・・・? 俺に、だよな。 ふと最近何となく感じていた視線を思い出す。 誰かに恨まれているんだろうか。 う~ん・・・、この前誘いを断ったジムの会員さん? それともその前の? まさか一度きりの体の関係を持った女のうちの誰か? あー、俺男のくせにマグロだとかボロクソ言われたもんな。しゃーねぇだろ、女とヤるより男にヤられたい願望あったんだから。 つーか今まで告白を断ってきた女たち? 思い当たる節があり過ぎる。わかんねぇ! 俺は犯人が女だと無意識に決めつけていた。コンドームの中身が精液ではないことで確信を持っていた。 その考えの甘さが、後の自分を苦しめる事になる。

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