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第11話 蓮くんは僕が護る 1

ーーーーーーーー ふう・・・ 『蓮くん開発日誌』を閉じた僕は大きく息を吐いてベッドに寝転がる。 蓮くんの部屋の窓にコンドーム水風船が投げつけられた後、何となくエロな雰囲気に持ち込めなくて、何となくだけど元気が無いように見えた彼と他愛もない話をして。 昼はデリバリーのピザをご馳走になって、「胃がもたれたから、今日は晩メシいらないっておばちゃんに言っといて」と言った蓮くんを塩田家に残し帰って来てしまった。 「ただの嫌がらせだから気にしてない」って蓮くんは言ってたけど・・・普通の水風船ならまだしも、避妊具を使って作った物が家に投げつけられるなんて、嫌がらせにしてはかなり悪質だと思うんだけど。 いくら彼が男でも、何かあった時あんな細い手足で反撃できるとは考えられない。まあ、相手が女性ならなんとかなるか・・・。 体を起こしカーテンを開け、お向かいの塩田家を眺める。蓮くんの部屋は僕の部屋の窓からは見えない。道路を挟んで住宅街の角に立つ互いの家。蓮くんの部屋は僕の部屋に面した道路と交差する道路に面した2階にある。 平日なら通勤通学で交通量もそこそこある道路だ。犯人は日曜の朝、ここの道が閑散となるのを知っている人物・・・ 生活圏が同じ、もしくは近い。でなければ蓮くんを監視つまりストーキングしている、という事になる。 考えても思い浮かぶ人物なんていない。だって蓮くんと僕の関係は浅いから。 今の時点では何もできない自分がもどかしい。でも・・・ 机の上の返しそびれた塩田家の合鍵を握り締め、僕は部屋を出る。 男を好きな蓮くんは僕の告白を拒否した。 当然だ。男なら誰だっていいわけじゃないんだ。 僕だって正直言って勢いだけだった。好きかどうかなんてよくわからない。 でも本当にショックだったんだ。蓮くんが僕じゃない誰かに開発されてしまうって考えただけで。 男を好きな蓮くんならワンチャン付き合えるかなって。そうしたら心置き無く彼の体に触れてあわよくばセックスも・・・ そう考えてる時点で、勢いだけじゃなく蓮くんを性的対象として見ている自分がいるのは確かだ。 そしてあんなもので水風船を作る犯人も、少なからず性的な目で蓮くんを見てるに違いない。 なんかムカムカする! インターホンも鳴らさず合鍵で塩田家に入り蓮くんの部屋へ。 「蓮くん!心配だから僕 泊まりに・・・あれ?」 いない。電気は点いてるのに。 主のいない部屋を出て階段を降り「蓮くーん」と声をかけてみる。 返事は無かったけど微かに聞こえる水音がバスルームの方からして、彼がお風呂に入っているのだとわかった。 お風呂・・・裸・・・蓮くんの裸。う~ん、見たい。 結局 今朝は中途半端な開発で終わってしまったせいか、不完全燃焼のモヤモヤが煩悩へと変わってしまう。 脱衣場のドアをそっと開け、今度は小声で「蓮く~ん」と呼びかける。シャワー音のほうが大きくて、当然僕の声は彼には届いていない。 忍び足で浴室のドアに近付く。マット加工されたガラス戸から透けて見える肌色。それだけで少し興奮してしまう。 「蓮くーん?」 気付かせるつもりのない声量で呼ぶと浴室から 「ん」 とエコーがかった彼の声。 ありゃ、気付かれちゃったか。『声掛けたけど返事ないから』って、堂々と覗きをしてやろうと思ってたのに。 「・・・は、・・・ぁ、ゆーき・・・さ」 浴室からの声に、ドアハンドルを握った手が固まる。息を飲んで耳を澄まし、シャワー音に隠れるような彼の声に全神経を傾ける。まさか・・・ 「ん・・・、ぅ・・・」 間違いない。蓮くんは、自慰している。 なななんだよそれ!めちゃくちゃ胸熱!是非見たい、いや拝ませてください! 「失礼します!」 勢いよく浴室のドアを開けると、顰めた赤ら顔でバスタブの縁に腰掛ける蓮くん。の握ったままの男性器の先から白濁が飛ぶ瞬間を目の当たりにする。 床に落ち、シャワーの水で排水溝へと流れて行く白い液体。 「かな・・・? ・・・えっ!?」 僕に向けられた赤らんだ顔が、火が点ったように急激に真っ赤に染まる。 「蓮くん!何してんのひとりで!・・・ああ~、僕がその顔させたかったのにぃ~」 「は!? て、てめぇ他人の風呂勝手に覗いて訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!!」 「ひとりでしちゃうなんてズルイよぉ~」 力いっぱい閉められたドアにへばりつく僕。 「きもいんだよおめーは!」 そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。僕は蓮くんのどんな姿にだって引かない自信があるのに。 明日、ユカちゃんに言おう。きっぱり「別れてください」って。ユカちゃんのことは嫌いじゃない。でも好きでもない。 カースト上位の彼女と付き合えてセックスして天狗になってただけ。肩書きだけの彼氏でもいいと思ったけどもういらない。 僕が今一番欲しいものは、蓮くんの体を管理できる権利だけだ。 「つーか、また何しに来たんだ」 怪訝そうな蓮くん。 今朝の事が心配だから、と言っても「そんなのいらねえ」と返ってくるんだろうな。 「えと、鍵を・・・」 「そういや返してもらってねーな。悪い、そこ置いといて」 そう言うんだろうなってのも想定済みだ。 「返してあげるから、泊まらせてよ」 「はあ?どーゆー条件だよ」 「嫌ならいいよ。スペアいっぱい作って、何回蓮くんに取り上げられようが めげずに不法侵入してやるから」 「堂々と犯罪宣言すんじゃねぇ」 「じゃあいい?」 「・・・・・・・・・・・・」 返事が無い。 「蓮くん?」 「・・・どーせダメっつってもまた勝手に入ってくんだろ。好きにしろ」 やった! 「そのかわりっ!」 バンッ と大きな音を立てて浴室のドアが開く。 「今日はもう、開発、は ナシだからな!先 部屋行ってろ!」 腰にタオルを巻いた蓮くんに脱衣場を追い出されてしまう。 むう。 あわよくばの下心を見抜かれたか・・・。 まあいいか。とりあえずは蓮くんのそばにいれるだけで。 暗い廊下の壁を手探りし階段の照明スイッチをONにして2階へと上がる。 明かりをつけずにベランダへ出て辺りを見回すけど、特に人影は無い。少しだけホッとする自分。 角度的にここからも僕の部屋は見えないな、やっぱり。もし蓮くんのこの部屋が自宅から見える位置だったら、ずっと見張っていれば犯人が分かるかもしれないのに・・・。 背後が明るくなり、蓮くんが部屋へ入って来る。 「電気もつけないで何してんだよ。つかさむっ、早く入って窓閉めろ」 「うん」 「俺あっちの部屋で寝るし、お前ここでいい?」 「一緒に寝ないの!?」 「シングルに男ふたり寝れるわけない。狭い」 そんなぁ。 部屋を出て行こうとする蓮くんの腕を咄嗟に掴んで抱き寄せる。 「なに、今日はもう開発はしねーって言った」 「う・・・」 念押しをされて一瞬怯みそうになったけど、別にそれが目的でここに戻ってきたわけじゃない、と自分に言い聞かせる。 「あの、その・・・えーっと、昔 姉ちゃんと蓮くんがお泊まりし合ったりしてて・・・、いつも僕は除け者で寂しくて・・・だから一緒に、寝たいなって」 我ながら下手くそな言い訳。本当のことだけど、高校生にもなった男がいつまでも寂しいなんて通用しないのに。 「・・・仕方ねーな、ほんっとお前は。あんまりくっつくなよ。明日学校なんだからもう寝るぞ」 「え、う、うん!」 やったぁ! こうも簡単にOKが出ると思っていなかった僕は舞い上がり、抱き締めたままの蓮くんを持ち上げベッドに運んで横になる。背中を向けた彼に寄り添い抱き枕のようにすると 「くっつくなって」 言うものの、僕を振りほどく様子は見られない。 それが諦めなのか向かいのガキンチョへの優しさなのかはわからないけど。 シャンプーのいい香りが漂う襟足に鼻を寄せると ビクン、と蓮くんの肩が跳ねた。 うなじも弱いのかな~? とか考えるとムラムラしてくるけど我慢我慢。 これから毎日泊まりに来るつもりでいるのに、初日で追い出されてはシャレにならない。 「あ、電気消さなきゃ」 「いい!つけたままで!」 「僕はいいけど。蓮くん明るいと寝れなくなんないの?」 「寝れる。・・・それに、暗いと妙な気分になりそうだから、このほうがいい」 「わかった」 僕は、妙な気分ってなんだろう、と思いながら蓮くんを後ろから抱え込んだまま眠りに就いた。

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