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第34話 お邪魔虫の退散 1

ーーーーーーーー 季節は冬。 僕は無事警察官になるための試験に合格し、高校生活は卒業を待つのみになっていた。 そんな中・・・ 「母さんね、再婚することにしたから♡」 お世辞にも若いとは言えない左手の薬指にキラリと光るシンプルな指輪。 青天の霹靂。 ちょっと待ってくれ母さん。 父さんのことはもういいの? そりゃ父さんが死んだのは僕が小学生に上がる前だから10年以上経つし、女盛りを独りで過ごして僕たち姉弟の為に費やしたのは不憫だと思う。 思うけども! 「お相手の方とは・・・い、いつから?」 「うーん、3ヶ月前くらい?」 嘘だろ!? 蓮くんと僕より交際期間が短いじゃないか! 「じいちゃんたちは、なんて?」 もちろん父方の祖父たちの事を聞いてるんだぞ。 「中谷のおじいちゃんたちも賛成してくれるって」 「そう、なんだ・・・」 まあそうだよな。母は父が死んでからも父の実家には毎月顔を出していたし、もう十分頑張ったと思う。再婚しても月命日には向こうに顔を出すつもりらしいし、父の事を忘れたわけじゃないんだ。 そんな母にも、幸せになる権利があるんだから。 「相手もね、随分前にうちの病院で奥さんを病気で亡くされてて。あ、今回は自分の骨折で入院してたんだけど。母さんに一目惚れしたらしいの~。奥さんに出逢ったときと同じくらいの衝撃だったんだって~。もうね、母さんもなんだかビビッと来ちゃって~・・・」 「あー! ハイハイ。わかったから。親のそういう話聞きたくないから」 「・・・お父さんにもね、聞けたらいいんだけど。まあ、無理よね・・・」 明るく振舞っていても、母は父に対しての罪悪感は多少はあるらしい。 「・・・父さんも、喜んでるんじゃない? 母さんを幸せにしたくて結婚したんだろうし、きっと母さんが笑って生きてくれることが嬉しいんじゃないかな」 「ありがとう。奏汰、お父さんにそっくりだから・・・なんだかあの人が本当にそう言ってくれてるみたい」 笑った母の目からは大粒の涙が零れる。 少し複雑だけど、きっといい事なんだろう。僕も母には笑って生きててほしい。父の分も。 「ってことでね、この家売ることにしたから」 「そっか・・・。え、ってええ!?」 「だって~、お父さんと一緒に買った家でしょ? 私はここで一緒にって言ったんだけど、奏汰にも音々にも悪いからって向こうが。それに音々は県外だし、あんたは春から警察学校でしょ? 誰もいなくなるんじゃ持っててもしょうがないじゃない」 「なんでだよ、いいじゃんここで住めば! 家まで手放すことないだろ!」 「そうよねー、わたしも手放したくないけど・・・。でもあんた、この家に他人が来てもいいの?」 「いいも何も、母さんがいいならそれでいいよ。僕どうせ帰って来ても週末だけだし、それにやっぱり父さんの物を全部無くすのは・・・なんか嫌だ」 父の僅かな記憶が残るこの家が知らない誰かに渡ってしまうくらいなら、母さんを愛してくれる人が一緒に住んでくれる方が幾分もマシだ。 「ですってー、タカシさん」 え・・・? 母が呼び掛けると、キッチンカウンターの奥でぬっと立ち上がる見知らぬ中年男性。 「ちょ、誰・・・」 「タカシさん。私の再婚するお相手」 「初めまして。奏汰くん。あの・・・ありがとう」 「は、初めまして・・・」 母の隣に並んで差し出された手にびっくりし過ぎて僕は思わず後退る。見るからに気の良さそうな優しそうな人。顔立ちが少しだけ父に似てる気がする。 「付き合いは短いけど、お母さんのことは前々から病院で何度も見かけてたんだ。素敵な人だなって。話してみたら気さくで想像以上に素敵で、年甲斐もなく恋に落ちてしまって」 「え~!? 一目惚れって言ってたじゃない! 前から知ってたの~?」 「知ってたけど、話してみて本当に惚れたんだよ。だから一目惚れみたいなもんだって・・・」 「あの、あの! もうそういうのいいですから!」 親の恋愛事情ほど聞きたくないものは無いな。 とにかくもうやめてください。 「タカシさんはどちらにお住いなんですか?」 「妻を亡くしてからは家に帰るのが辛くて、もう10年以上ホテル暮らしなんだ。一応家はあるけど、今は妹家族が住んでるよ」 10年以上ホテル暮らし!? え、なにこの人、何者なんだ。 「心配しなくても危ない仕事はしてないよ。資産が少しばかりあって、投資を生業にしてるだけだから」 「そ、そうですか・・・」 お金持ちってこと・・・? 「こういう家庭的な雰囲気、久しぶりだから感動するな。私は弱くて、写真以外は妻との思い出を捨ててしまったから・・・。君のお母さんが大切に守って来たもの、一緒に守って行くと約束するよ」 「あ、りがとう、ございます」 「あ、亡き妻の写真だけ置かせてくれないかな」 「はい。母さえ良ければお好きになさってください」 直感だけだけど、この人はきっと母も 母が愛した父も大切にしてくれる人だ、と僕は思った。 万に一つ、父の遺した財産目当てかもと思った僕を許してくださいタカシさん。 暫くして蓮くんが夕飯を食べに家に来て見知らぬオジサンがいるのに驚いていたけど、タカシさんの物腰柔らかな雰囲気にすぐに打ち解け、なんだかいい雰囲気で食事を終えた。 夜はすっかり塩田家に泊まりに行くのが日常になっている僕は、蓮くんがお風呂に入っている間も浴室のドアに寄りかかり待つ犬と化す。 「・・・何なのお前。なんで最近ずっとそこにいんの?」 「気にしないで。蓮くんと一緒にお風呂入りたいけど、誰かさんが頑なに嫌がるからここにいるしかないだけだから」 「・・・あそ」 気にしてよ。 でも僕はわかってる。普段は素っ気なかったり冷たかったり強気に見える蓮くんが、本当は押しに弱くて流されやすくて、僕には甘いって。 「・・・・・・一緒に入るだけなら。別にいいけど」 ほらね。 「やったあ」 「でも風呂ではやんねーからな!」 ちっ。 まあいいや、それが目的じゃないし。 脱いだ服を畳んで浴室へ入ると、体を洗ってる蓮くんの背中がある。 「もう髪とか洗っちゃった?」 「おう」 「じゃあ背中洗ったげる」 「背中は、いい!」 「遠慮しないで」 ウォッシュタオルを蓮くんの手から取り上げ、背骨に沿って軽めに擦る。 「・・・っ」 弱点を擦られて必死で耐えてる後ろ姿が愛おしい。 ヤるのが目的じゃなかったけど、そういう反応されると堪んないな。 「明日からは僕が洗ってあげるね、髪も」 「っはあ!? いらねーよ!」 「でも春からは僕、週末しか蓮くんに会えなくなっちゃうから。いっぱい触って充電しておきたいな」 毎日蓮くんの体に触れて、僕以外に触られたら蓮くんが違和感を持つくらいにしておきたい。 「いいでしょ?」 僕は泡だらけの蓮くんを背中から抱きしめる。 密着した彼の背中に自分の前身を上下に滑らせると、少し震えた声で「わかったから」と返ってくる。 ソープ嬢になった気分で体を擦り付ける僕は調子に乗って、蓮くんの胸に手を伸ばし、泡を利用して手のひらや指を突起の上に滑らせてみる。 「ひぅっ、う・・・、だめ奏汰っ」 「だめ、とか言っちゃうの可愛い過ぎだから。あーもう、エッチするつもりなかったのにな~。そういう気分になっちゃうじゃん~」 無かったのはほんと。 無意識でも煽る蓮くんが悪い。 「奏汰もーいいから! 流して出よ!?」 やだよ。 蓮くんが腕を掴んでくるけど泡が邪魔をして上手く振り解けないでいる。 「ふ・・・やめろって!」 嫌だ。やめろって言いながら勃たせてるの見えてるんだからな。 「奏汰!!」 「ぶふッ」 蓮くんの乳首に夢中になっていた僕はシャワーの水圧に奇襲される。 「何か返事しろよ。お、まえが・・・無言になんの、なんかビビる」 「ごめん。つい乳首触るのに没頭しちゃって。怖がらせちゃった?」 蓮くんからシャワーを受け取り、僕は二人の体についた泡を流す。 「怖いっつーか、いつもベラベラうるせーのに無言で攻められると調子狂うっつーか。違う奴みたいで気持ち悪い」 それって遠回しに「奏汰じゃないと気持ち悪い」って言ってる? だったら僕めちゃくちゃ嬉しくて図に乗るんですが!? 「蓮くんは僕に触られてるかどうかもわかんないの?」 「イヤ見てわかるけど」 「見なきゃわかんないの?」 僕は蓮くんの視界を奪うように、泡を流したウォッシュタオルを巻き付け後頭部で結ぶ。 「ちょ、なに・・・」 「外しちゃ駄目だよ。見えなくてもわかるように、僕の触り方をこの体にとことん教えこんでおかないと」

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