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第35話 お邪魔虫の退散 2

「え・・・、わかる! わかるからい・・・ってぇ!!」 目隠しを外そうとする蓮くんの乳首を ぎゅっと抓ると体を丸めて、僕の手を「ギブ!」とタップする。 「ちゃんと僕の触り方、覚えてね?」 「うう・・・クソ。何がしてーんだよお前」 蓮くんを丸ごと僕のものにしたいだけです、ハイ! 「大人しくしてて。大事な蓮くんを傷付けたくないから」 「暴れたら怪我するかもしんねぇってことかよ」 「蓮くん次第だよ」 バスチェアごと180度回転させ向き合うと、蓮くんはひとつに結んだ唇をピクリと動かす。 僅かでも何にでも反応を見せてくれるのがこの人のいい所でもあり、心配な所でもある。 触れるのが僕じゃなくてもこの反応をするのかな。させたくないな。 もしも僕じゃない誰かに蓮くんが触れられたなら、触れた先から石化して表情ひとつ変えないオブジェにでもなってしまえばいいのに。 蓮くんの両肩に手を置くと、構えていたようで反射でピクリと上がる。 「てめ・・・いきなりっ、変なとことか触んなよ?!」 荒い口調に反した 俯き加減で怯え気味の小動物感がこの上なく愛らしいと思う。 幼い時から、綺麗で可愛くてカッコイイと遠くから憧れてた向かいのお兄さんが、近寄り難いと思っていた存在が、僕の言いなりになって一挙手一投足を伺うようにじっと待ってるなんて・・・ 夢だったら永遠に起こさないでほしい。 夢じゃないならどうかこのままずっと僕を満たしていて欲しい。 「唇に触るね」 「う・・・ん」 自分のよりも小さい唇に親指で判を押す。 いつもは血色がいいとは言えないけど、浴室内で濡れて火照っているせいか艶と赤みを帯びてる。 「舐めてみて」と言うと、唇の合わせから割り出した舌先が親指の腹に触れた。 「これが僕の味。覚えた?」 「水の味しかしねーし。お前の味はなんか、苦いみたいな甘いみたいな、なんつーかベタベタして・・・」 僕の指に当てたままの唇が動く。 味って・・・まさかザーメンのこと言ってるんじゃないよね? 「とにかくこんなの奏汰の味じゃない」 蓮くんは少し不貞腐れて片頬を膨らませる。 素で言ってやってるの、それ。 だとしたらとんでもない魔性じゃないですか? 一度ゴックンしただけなのにちゃんと覚えてるとか、ヤラシイ上に健気でもう・・・ ああ~、今すぐバスタブの縁に両手を着かせて、立っていられなくなるまで後ろからズブズブに突いてやりたい! ってそうじゃないだろ。ついつい蓮くんとセックスすることばかり考えてしまう癖をどうにかしなきゃ。警察学校へ行ったら週に一度しか会えなくなるっていうのに、こんな煩悩を抱えたままでどうするんだ。 「ん、ん゙ん゙っ」 咳払いをして気を取り直し顎にかけた指をこしょこしょと動かすと、蓮くんは「は・・・」と吐息だけを漏らす。 くう・・・ッ! 不意打ちの吐息は反則だよ。色気が尋常じゃないよ。 「奏汰、それ擽ったい。いつも思うけど、俺女じゃねんだから、そんな優しく触ってくれなくても平気なんだけど」 「いいの! 僕がしたいようにしてるんだから蓮くんは黙ってて!」 「わかったよ。・・・ありがとな」 へ・・・? なんで『くれる』とか『ありがと』とか言っちゃうの? ねえ、僕が優しく触るのに対してのお礼なの? ねえぇぇ!? こっちこそありがとう!! 「蓮くん、わざとなの? 僕を試してる・・・?」 「試す?」 「ううん。何でもない」 そうだ、この人はそんな器用な男じゃないだろ。 蓮くんと毎日接してわかってるじゃないか。 僕がいつでもこの関係を解消できるように抜け道を作ってくれてたり、束縛だってしないしヤキモチだってほとんど無い。 ・・・ように本人は振舞ってるけど僕のことが好きだってダダ漏れてて何でも無い振りをしきれていない。それが本当に刺さるというか、もう僕の理想ド真ん中っていうか。 「蓮くんが女だったら、僕の奥さんになってくれた?」 こんな風に聞くのは、ゲイの蓮くんには酷かもしれない。だけど、ただ頷いてほしいんだ。 「女、だったらな」 目元が見えなくても、蓮くんの表情が翳ってるのはわかってる。 でも心配しないで蓮くん。僕はあなたが男でも、必ず人生の伴侶にしてみせるから。 男同士なんて不毛だと知りながら男にしか惹かれない蓮くんが好きだ。 異性を好きになるのが当然だと思ってる世間から切り離されてて、彼が僕を好きで、僕がどれだけ好きだって言おうが心の底では信じきれていない蓮くんが好きだ。 それはつまり誰のものにもならないってことだから。 ・・・まあ、僕のものにもならないって事でもあるんだけど。 首筋に滑り下ろした手を更に下げ、蓮くんの胸の真ん中で止める。 「蓮くんは、右の乳首の方が敏感だよね」 「・・・知らねぇし」 ほんとかな? 「じゃあ、触ってみるね」 僕は蓮くんの胸から手を離し、ゆっくりと片方の乳首に手を伸ばす。 小さな突起をそっと指先で擦ると 「ひあ・・・ッ! てめ、右って言ったのに!」 右にばかり神経を集中させていたのか無防備になった左を触られて、不意打ちをくらった蓮くんが怒る。 「右のを触るなんて、ひとことも言ってないよ」 「言ったみてーなもんだろ!」 「そっか。やっぱり気持ちいい方を触られたかったんだね」 「ちが・・・」 違う、と言いかけた蓮くんが俯く。 「本気で怒った? ごめん、両方とも気持ちいいってわかってるからちょっと意地悪しちゃった」 「怒ってない。そうじゃなくて・・・」 じゃなくて? 「俺のどこが気持ちいいか、奏汰がちゃんと知ってんだなって思ったら・・・急にすげー恥ずかしくなっただけ」 ドッカン って頭が爆発しそうなんですけど! な、な、何なの、この人は。 僕は歳下なのを気にしてて惚れた弱みも大いにあって、せめて主導権を握って余裕ぶりたいのに、ことごとく返り討ちにあって逆に蓮くんの魅力にやられまくってしまう。 可愛すぎて好きすぎて心臓もアソコも持たない、これ以上は。 「蓮くんっ、蓮くん!」 「わっ、今度はなんだよ!?」 力いっぱい抱きしめると、目隠し状態の彼が慌てふためく。 蓮くんが欲しくて我慢できなくなって、強引に塞いだ唇は戸惑っている。 でもそれは瞬間で、深くなる僕のキスをすぐに受け入れてくれて。 蓮くんもこうしたかったんだってわかって嬉しくなる。 「ふ・・・ぅ、・・・ぅ、ぁかっ・・・・・・ぅくるっしい!!」 「わっ」 蓮くんに思いっきり突き飛ばされて、僕は床に尻もちをつく。 「息できねぇだろ! がっつき過ぎ!」 「いてて・・・。息なら鼻からすればいいでしょ。もー蓮くんてばいつになったらキス上手になるの?」 「は・・・? なに、バカにしてんのか? お前こそ発情した豚みてえに攻めまくるのいい加減やめろよ」 豚とは・・・ 「豚はセックスが下手って聞くもんね。へえ、蓮くんは僕のことそんな風に思ってたんだ」 経験が少ない自分が上手いとも思ってないけど、そう思われてるのはなんか気に食わない。 「イヤ、下手とか知らねぇけど。射精が長くて執拗いっつー話じゃん? お前もなんつーかこう色々と執拗いから・・・」 「へえ~そう。じゃあお望み通りしつっこくてねちっこい下手なセックスで蓮くんをドロッドロにしてあげるね♡」 「下手とか言ってねーだろ! それに俺明日は午前中 五十嵐と本買いに行く約束してるし」 何だって!? 明日はせっかくの休日なのに、その半分を蓮くんは五十嵐さんと過ごすつもりだったの!? 「行かせないよ。蓮くんは今から僕のやることぜーんぶ体に覚えるまで寝れないんだから」 「それ、もう終わってんじゃ・・・」 「終わってないよ。ついつい蓮くんのセックスアピールに興奮を抑えられなくなってたけど」 「俺がいつそんなアピールしたんだよ」 無自覚怖い! 不機嫌そうにボヤき目隠しを外そうとする蓮くんの両乳首を指で弾くように擦ると、「んっ」と鼻に抜ける甘い声。 「ほら、してる」 「お前がいきなり触るから・・・っ」 ああ、楽しい。 春までの時間を蓮くんとずっと一緒に誰にも邪魔されずに過ごせたら、会えない間もきっと頑張れちゃうのになあ。 翌日、一旦家へ帰った僕を待っていたのは、生クリームよりも濃厚で甘ったるい雰囲気の母とタカシさんだった。 「やだ奏汰! 帰ってたの?」 「お、おかえり奏汰くん!」 リビングのドアのガラス越し、僕が帰ったのに気付いた二人が慌てて距離を取る。 あー・・・、これって僕、完全にお邪魔虫ですよね。 二人の再婚は心から賛成してるけど、母親の女の部分が垣間見えるのは正直キツイ。 というかこれから毎日親のこんな場面に遭遇して、気まずくて微妙な空気の中で生活するなんて耐えれないんですけど!?

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