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第40話 5年前 春の日 1

⚠五十嵐 佳廉の過去ストーリーです⚠ 女みたいだと言われ続けて来た15年。 小さい頃は、母にフリルのブラウスやフレアスカートを無理矢理着せられて、親兄弟や周りに可愛い可愛いと持て囃されて何の疑問も持たなかった。 小学生になってそれはおかしい事なのだと気付いて男はスカートなんか履かないんだと知り、初めて俺は母に逆らった。 怒られるんだと覚悟していたけど、母はすんなり聞き入れ周りの同性と同じような服を着せてくれた。 もう二度と女のカッコはしない、と心に決めた。 「佳廉が女の子だったら良かったのに」 という母の言葉はそれ以来聞くことは無かった。 中学生にもなると好きな女の子ができて、恥ずかしながら告白なんてこともしたり・・・ でも返って来る答えはいつも同じ。 「五十嵐と並ぶの、勇気いる」 スカートを履かなくなっても、まだ体は小さく俺の顔は女みたいだった。クラスの女子の誰よりも可愛いと言われた。 虐められたとかそんなのは無い。むしろ人気者だった気がする。 皆が俺の顔を褒めて、皆がそれなりに好いてくれた。でも、誰かの特別にはなれなかった。 高1になっても俺の背はまだ小さい。15年かけても160に届かない。兄貴たちは4人とも長身なのに、なんで末っ子の俺だけ。毎日牛乳も欠かさず飲んで、ぶら下がり健康器とかいうこの昭和の器具にも頼ってんのに! ホントにコレ効果あんのかよ親父! リビングでテレビを見ながら、雨の日には洗濯物干しにされてしまうバーに俺はぶら下がる。 「・・・だ! ・・・・・・ってい!」 天井から女の喚き声。あ~またか。 3番目の兄貴 (しん) が女連れて来て2階の自室でケンカしてる。いつもの事だ。 ったく社会人のくせに自立もしねぇし、連れてくんのはろくに挨拶もできないようなブスばっかだし、パチンコばっか行ってっしどうしようもないクズなんだよな臣兄は。 親父達も甘やかしてないでさっさと追い出せばいいのに。 家中に響き渡るほどの音を立てて階段を降り、逃げるように家を出て行く女。 よっぽど酷いケンカだったのかな。ありゃ臣兄また振られたな。 今度はドスドスと機嫌の悪い足音が降りて来る。 あー、めんどくさいのが降りてきた。自分の部屋に避難しとくか・・・ 「メシは?」 リビングを出るところで臣兄と鉢合わせる。 当然だ、入口はひとつしかない。 「親父は出張、母さんは遅番。俺は冷凍チャーハン食ったけど。自分でカップ麺でも食えば?」 「んだよ、お前しかいねえのかよ。だりぃな」 兄から逃れるように階段を上がって行く俺の真後ろに、逃れたい相手がついてくる。 「腹減ってんじゃないの?」 「めんどくせーからやめた」 あっそ。勝手にすればいいけど、女とのケンカで俺に当たるのだけは勘弁して。 「お前さあ、いつ成長すんの」 「ほっとけよ! もうすぐだよ!」 「スカート履いてた頃が懐かしいよな。つーか今でも履けんじゃね? 女より似合うぞたぶん」 「うるさい!」 「なんだよ反抗期か。昔は素直でなんでも言うこと聞く可愛い弟だったのによ」 勘弁してって思った矢先にこれだもんな。可愛いなんて思ってもないくせに。 男だけの兄弟なんてそんなもんだ。特にウチは兄弟5人とも男でむさ苦しいし、下になればなるほど下僕感が増す。俺は兄弟の中でいちばんイジられるし扱き使われやすい。特にこのクズ三男に。 一刻も早く臣兄から解放されたくて、部屋に入ってドアを閉めるけど、鍵が付いてないせいで無遠慮なモンスターが侵入してくる。 「もー彼女とケンカしたからって俺に当たんなよな、いい大人なんだから!」 「佳廉は俺より大人じゃ~ん。こんなエッチな本読んでんだから」 ベッドのマットレスの下に隠していたエロ本を瞬時に見つけられてまたイジられる。 「し、臣兄だって、高校生の時はもう読んでただろ!」 「バーカ、俺は実践派だったの。ペラッペラの触れねえ女なんか見て何が楽しいんだか。ま、お前その見た目じゃまだ童貞だろうから、紙の女でちょうどいんじゃね? ははっ」 パラパラとエロ本に目を通す兄。 最低。早く出てけよ、俺の部屋からも家からも。 「あ、これと同じの俺持ってるわ」 兄は手を止めたページを俺の方へ向ける。 写っていたのは、下着なんだかワンピースなんだか分からないとにかくスケスケレースのドエロい服を来たお姉さん。 「男のくせになんで持ってんだよ! 変態か!」 「はあ? 女に着せるために買ったんだよ。着せる前に逃げられたけどな」 こ、こんなヤラシイ服を着せてヤッてんのか、臣兄は。俺はまだ女の子と付き合ったことも無いのに。 くっ・・・羨ましい、クズのくせにこんなスケベな女の人と・・・ 「アレ、お前勃っちゃってるじゃん。マジで童貞すげぇ~、この女見てどこまで妄想してんだよ。兄ちゃんにも教えろよ~」 俺は慌てて股間を押さえて兄を睨む。 うるさいうるさい! バカにしやがって! 「そーいやお前ちゃんと剥けてる? 兄ちゃんが確認してやっからちょっと来いよ」 「よけーなお世話だ! やめろクズ兄貴!」 肩をがっちり組まれ体格差が災いして、抵抗する俺は簡単に臣兄の部屋に連れて行かれてしまう。 「ハイハイー、大人しくしてないと苦しいぞー」 床に跪かされベッドに頭を押し付けられ、カチッと項で音がする。 何・・・ 自分の首にかかる重みに手をやると、冷たい皮の帯が一周している事に鳥肌が立った。 「なんだよこれ! 外せ・・・おぇっ」 振り返り立ち上がろうとした俺は、首が締まって嗚咽を漏らす。 嵌められた首輪は、1メートル程のチェーンでベッドのパイプと繋がっている。 「きっも、兄貴にこういう趣味まであるとか引くわ」 「だよなぁ。さっきもそれでボロクソ言われてさー、キモイとか散々言われたわ。無理矢理ヤッちゃ犯罪だろ?」 弟を無理矢理繋いでも犯罪だろ。 「そーだ、ついでにさっき見たやつ着てみろよ。お前、顔だけは女だからいけんだろ」 「嫌だ!」 絶対に嫌だ! 女の服なんて二度と着たくない! 手足の自由はあっても、繋がれた首輪で逃げられない。力じゃ勝てなくて、あっという間に素っ裸にされて、俺は兄のベッドの上で脚を抱えて身を縮める。 「くっそ、覚えてろよ変態兄貴! 俺がお前より強くなったら同じ事してやるからな!」 「お前が成長するまで覚えてらんねーかもな。ほらこれ着ろ。嫌なら裸で外放り出してやる」 頭の上に乗せられた黒い布切れが、抱えた足元に落ちる。 こんな布だか網だか紐だかわからない女ものを着るくらいなら、いっそ裸で外に出されたほうがマシかもしれない。 けど万が一にも知り合いに見られたら、彼女ができないだけじゃ済まされない。 兄に勝てない悔しさを噛み締めながら、震える手で三角に細いゴムがついただけのパンツを履く。 レース地の履き心地が悪いしゴムが尻の間に挟まって気持ち悪い。 胸から下の部分がパックリ縦に割れたスケスケを頭から被ると、首輪のチェーンに引っかかって下げることが出来ない。 「考えて着ろよ。こういう時は足から通して着ろよな」 「普段こういう時が無いのにわかるか! 着慣れてたら逆に怖いわ!」 文句を言いつつ兄に言われるまま布切れを何とか着る。 「おー、可愛い可愛い」 「なわけねえだろ! ・・・・・・クソ」 屈辱。もう絶対に女のカッコなんかしないって誓ったのに、スカートどころかこんな卑猥なものを着ることになるなんて。 見下ろせば、薄い男の体に纏った黒のスケスケがアンバランスで気持ち悪い。何をもって臣兄は「可愛い」と言っているのか。俺は完全に兄のオモチャだ。 「・・・なんか俺、お前でも抜けそう。勃ってきたわ」 「は・・・?」 ボソリと呟く兄に恐怖が湧く。 弟を首輪で繋いでこんなものを着せて性的興奮を覚えるなんて、こいつは頭がイカれてる。 「大人しくしてれば痛くしねえよ」 「バカかてめえは! 触んな! もういいじゃん、もうやめろよ!」 「まだ剥けてるか確かめてねえだろー。ま、レース越しに見えてんだけど、まだコドモの佳廉ちゃんが」 脱いだ時にチェーンに引っかかったままになっていたTシャツで両手首を巻かれキツく結ばれてしまい、力で既に敵わないのに抵抗の余地を更に奪われて、俺はめいっぱい暴れるしかない。 「大人しくしてろっつってんだ、ろ!」 「う・・・っ」 頬に重たい平手打ちを食らう。目の前に星が飛んで、痛みと恐怖で頭がクラクラする。 「嫌だ、臣兄・・・」 「あー、泣いちゃうか。お前、昔から泣き虫だったもんなぁ」 違う、俺が泣き虫なんじゃない。いつもいつも、臣兄の弟いびりが度を超えてたからだ。 文句を言っても反抗しても、俺が泣くまで絶対にやめない。いや、泣いてもやめない。 子供の頃の俺は、臣兄は悪魔だと思っていた。 思い出すと体が竦む。 嫌いだ。怖い。抵抗はこの悪魔を逆撫でして増幅させてしまうだけだ。 俺は震える唇を噛み締めて仰向けで寝転がったまま両膝を立てる。そうすることが今できる最大限の抵抗。 「お、素直。股間隠せば胸無い女にしか見えねえな」 兄がスウェットパンツと下着を下げる。見たくもない勃起に反吐が出そうになる。 このクズ兄貴は、本物の悪魔だ。

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