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第41話 5年前 春の日 2

「うッ、・・・ぁぅ・・・ぁ」 「初めは泣き喚いてうるせぇだけだったのに、静かになったな」 兄は今何をして、俺は何をされてるんだろう。 こんな事になるなんて予想もしてなかった。ただオカズとして寝転がっていればいいと思ってたのに。 無理矢理尻に突っ込まれて痛くて死にそうで、感覚が無くなるほど抜き差しされて。 なのになんで、今度は腹の中が熱くて込み上げて来るような何かで体は震えてる。 この感覚の先が知りたいような、知りたくないような。 何でもいい、1秒でも早くこの悪魔から解放されたい。頼むから早く、早く終わってくれ。 「あ? 佳廉おまえ、ケツ ヨくなってきた? パンツからはみ出してんじゃん前」 え・・・嘘、なんで。 こんな酷いことをされているのに、ボロボロな心とは正反対に、体は興奮しているっていうのか。 「や・・・、もぉ・・・っ」 「さすがに丸見えになってんのはキツイわ。ホラ、剥いてやるからパンツにしまっとけ」 亀頭を半分ほど覆う皮を勢い任せに下げられ、兄が引っ張り上げたレース地に強引に収められる。 伸縮する生地が露わになった敏感な先に張り付くように擦れて、強い刺激をビリビリと感じて俺は意図せずに射精してしまう。 「こんな事されてイッてやんの。どっちがキモイ変態かわかんねぇな、佳廉。童貞は何にでも気持ち良くなれて羨ましいわ」 「・・・っ」 泣くもんか、とTシャツでチェーンに括り付けられた手を握りしめる。 ムカつく。こんな奴、兄貴でも何でもない。 一生、恨んでやる────── それから俺は、臣を徹底的に避けた。 春が終わってすぐに夏が来て、ようやく念願の彼女ができた。俺よりも小さくて、笑うとキラキラが飛ぶような可愛い彼女。 期待していた初めてのセックスは、失敗に終わった。「気にしなくていいよ」と彼女は言った。 けど次も、その次もまた失敗だった。 挿れる事ができても、すぐに萎えてしまう。俗に言う中折れってやつだ。 自分があの悪魔と同じように腰を振ると思ったら、そこからもうダメだった。 彼女とは2ヶ月持たずに別れた。 その頃俺はちょっとしたモテ期ですぐに新しい彼女ができた。 でもやっぱり続かなくて、それを何度か繰り返して高2の春を迎えた。 相変わらず俺は臣を避け続けていた。けれど同じ家にいる限り、嫌でも存在は感じるわけで。 1番目2番目の兄たちはとっくに自立していたし、4番目の兄もこの春から県外の大学へ進学して家を出た。 兄弟の中で家に残っているのは、臣と俺だけだった。 その日は運悪く、親の不在に臣が懲りもせず女を家に連れて来ていて、風邪をひいて熱を出した俺はベッドで寝込んでいた。 親がいなくてやりたい放題の臣が自室のドアも開けっ放しで女とセックスしてる。 下品な喘ぎ声とベッドが軋む音が丸聞こえで、俺は頭から布団を被って耳を塞ぐ。 ふざけんなよ。何なんだ。 俺は1年前のたった一度の出来事を引き摺って、セックスできない体になってしまったのに。 今も変わらずあの悪魔が呑気に腰を振ってるかと思うと、怒りを通り越して涙が出てくる。 でもやっぱり腹ただしくて、俺はベッドの脇にある目覚まし時計を掴んで思いっきり部屋の壁に投げつけた。 時計は大きな音を立てて壁に当たり、角が割れて床に落ちる。 下品な声が途絶えしんと静まり返った後、今度はヒステリックな女の声が聞こえる。 少ししてから2階の廊下を歩き階段を降りる音が聞こえた。 女が出て行って静かになったことで、俺はほっとして眠りに落ちる。 ・・・はずだったのに、部屋のドアが開き悪魔が降臨して、気付かないフリで目を閉じる俺。 「あんなデカい音立てといて寝たフリが通ると思ってんのか」 耳元で低い声がする。ハッキリ言って怖い。心臓がバクバク鳴ってる。 「長いことシカト決めこんで避けて、挙句に人のセックス邪魔して。何がそんなに気に食わないんだよ佳廉」 呆れたような溜息が聞こえる。 ・・・は? ねえ、お前マジでそれ言ってんの? 実の弟 犯しといて、何が気に食わないかもわかってねえの? なあ臣兄、同じ兄弟でも考え方や性格は違うよ。だからってここまで通じないのは終わってるだろ。 恐怖に変わった怒りが、胸くそ悪さと共に再び沸々と湧き上がってくる。 「お前がっ、俺を・・・! あんなことが無きゃ、俺だって普通にヤレるはずだったのに! 全部お前のせいだろ!」 話したくもない、けどもう我慢できない。 熱のおかげで意識は朦朧気味だし、今なら臣の表情を伺う余裕も無い。悪魔がどんな顔をしていたって、今なら面と向かって恨み言を言える気がした。 「彼女ができてもエッチもできないんだぞ! お前に無理矢理されたせいだ! どうしてくれんだよ、責任取れよ! 俺・・・っもう、一生、できねぇ かも・・・っ」 目頭が熱くなって一気に涙が溢れてくる。 誰にも言えなかった。実の兄に犯されてセックスが怖くなったなんて。 でも唯一、言える相手がいたんだ。それが、俺を犯した張本人だ。 「やっと口聞いたと思ったら、大胆発言だな」 「まじっ、真面目に、言ってんだよ! おれ・・・、女と、エッチできない、体に・・・」 「だったら男とヤレばいんじゃね? お前そっちの才能あると思うけど」 「そんなの、嫌に決まってんだろ!」 臣は掛け布団を捲り、トップスの裾から手を入れて俺の胸を撫でる。 ヒヤッとした手のひらに体がビクついてしまう。 「佳廉は泣いてるのが一番可愛いな。『責任取れ』ってそういう意味だろ?」 「ふぁ・・・」 臣の指が乳首の上を掠めて、俺は思わず変な声が出る。 「女みてえな反応してんじゃん。あー終わってんな俺も。弟がエロく見えるとか」 臣が終わってるのはずっと前からだ。今に始まった事じゃない。 服を捲り上げられて嫌というほどふたつの突起を弄られて、発熱した体はろくな抵抗もできないまま興奮と快楽で満ちていく。 気持ちいいと思う事に背徳的なのか、それとも体調が悪いせいか、体は熱くて堪らないのにあそこは萎えたまま。 一旦 部屋を出て戻って来た臣兄の手には、透明の液体が入ったボトルとコンドームがあった。 それを見た瞬間、尾骨の辺りがぞわりと粟立つ。 また挿れられるんだ、と思うと恐怖が蘇る。でも、蘇ったのは恐怖だけじゃない。 下服を全て脱がされ、俺の脚は開いたまま抱え上げられる。その間にだらりと力無く項垂れる男性器に、臣が握ったボトルからローションが垂れ落ち、突然の冷たさに背中が浮く。 「はは、熱あるからタマだらけ過ぎてて笑えるな」 可笑しそうに緩む臣の顔。血が繋がってるっていうのは厄介だ。殺したいほど憎かったはずなのに、軽率に許してしまいそうになる。 臣はローションを手のひらで温めるように伸ばしコンドームを被せた自分の昂りに塗りつけると、俺の窄まりに宛てがい少しづつ侵入しようとする。 何とか先だけ挿入っても、締め付ける痛みに耐えられなかったのか臣は腰を引く。 そして2本の指にもコンドームを被せ、代わりに俺の中へ差し込む。 「っあ、・・・しん、にい、痛い・・・っ」 「解してやっから我慢してろ」 「でもっ、・・・汚、い」 「はっ、今更だろ。言っとっけどな俺、赤ん坊のお前のオムツ替えたこともあったんだぞ」 え、そう・・・なんだ。俺が覚えてるわけも無いし、初めて聞いた。もしかして昔はクズ兄貴なりに、弟の俺を可愛がってくれてたのかな・・・。 そう思えば恨みも憎しみも薄れる気がした。 体が怠くて重くて動かすのも面倒なくらいしんどい。俺は臣兄にされるがままを受け入れるしか無かった。諦めたのかもしれない。こうするしかない、と。 いつしか臣兄とセックスするのが当たり前になった。 フラフラと遊んでいただけの臣兄は家に女を連れて来ることも無くなり、以前から友人と共同で開発していたアプリゲームがバズって小さな会社を立ち上げた。家に金を入れるようにもなったし、だらしない身なりも生活も一変した。 そんな臣兄を見て両親も安心していた様だった。 俺は密かに誇らしかった。あのクズ兄貴が、俺と関係を持つようになってから真面目になったと思っていた。自分が臣兄を変えた。臣兄には俺が必要なんだと思った。 だから、自分だけが臣兄の特別だと・・・ その想いが恋心に変わるのに時間はかからなかった。 けど、人はそう簡単には変われない。とりわけ『クズ』と呼ばれる人間は特に。 臣兄は会社の金を使い込んでいたことがバレて職を失ってしまった。 横領した金は、ギャンブルと女に使っていたらしい。 俺は、臣兄を変えてなんかいなかった。

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