43 / 55
第43話 恋人の定義 1
ーーーーーーーー
金曜の夜。
1週間 警察学校でみっちり勉強して訓練を受けて自宅へ帰る。
別に家に帰らなくてもいいけど、休みがあるなら帰りたい。
なぜって、そんなの蓮くんに会いたいし、イチャイチャして触りたいし舐め転がしたいしぐっちょぐちょに交わりたいからに決まってる。
「あれ奏汰、お向いさん行くの?」
「うん」
「泊まり?」
「うん」
「もー、せっかくタカシさんが夕飯作ってくれたのに~」
「ごめん二人で食べて。行ってきます」
母の呆れた行ってらっしゃいを聞いて僕は塩田家へ。
なのに、なのに・・・
「なんっで五十嵐さんとイチャイチャしてるの!?」
自宅に帰って座る間もなくお向いさんちに直行したのに、リビングのソファで僕を待っていたのは愛しい愛しい蓮くんだけじゃなく、その友人の五十嵐さんもだ。
しかも蓮くんはバックハグされてるという クッソいらないオプション付き。
「奏汰おかえりー♡」
「離れて! 蓮くんから今すぐ離れてください! そして二度と触らないでください!」
僕は、蓮くんを正面から抱えて五十嵐さんから取り上げる。
「え~いいじゃんちょっとくらい。奏汰がいない間、蓮に悪い虫がつかないように俺が見張ってやってんだから」
「いちばんの害虫がくっついてるじゃないですか!」
「ひっど! スキンシップだろこんなの。カリカリしちゃってヤダねぇ、これだから束縛彼氏は怖い怖い」
悪びれもしない五十嵐さんは両手を肩の高さで広げて首を左右に振る。
「蓮くんもされっぱなしになんないで抵抗して! せめてなんか言いなよ~」
「あー・・・、うん。 おかえり」
違う。僕にじゃなくて五十嵐さんにだよ。
くうぅ、見上げて来る蓮くんの瞳がキラキラしてて怒るに怒れないじゃないか。
心做しか、僕に会えて嬉しそうにも見えるし。
今はグチグチ言うのは我慢しよう。その代わり五十嵐さんを追い返したら、とことん説教、プラスお清めセックスしてやるんだからな。
「あの、申し訳無いんですが、五十嵐さ・・・」
「さーって、奏汰も帰って来たし俺もそろそろ帰ろっかな」
「えっ!?」
どうしたんだ。やけに引き際がいい。僕が言う前に自ら帰ろうとするなんて。
「そんな驚くこと? 別に俺は二人の邪魔したいわけじゃねーよ。ただ蓮といたかっただけだし、ハグ以上はしてねーから、お清め~とか言って蓮に酷い事すんなよ」
う、心を読まれてる・・・。
じゃな、と言って五十嵐さんはアッサリ帰って行く。
「ねえ蓮くん、どうしちゃったのアレ・・・」
「さあ、知らね。ここんとこずっとあんな感じでくっついて来て、だからってなんかする訳じゃねえし放置してる」
「そう、なの? なんかあったのかな」
「好きだった人が結婚するらしいから、ちょっと病んでんのかもしんねえ」
「そー・・・なんだ」
五十嵐さんはゲイなんだよね? てことは好きな人は男で、結婚って言うくらいだから女の人とだよな。
そっか、それは確かに辛いかもしれない。
けどそれだけじゃ無い気もする。純粋に蓮くんとくっついていたいって思ってるよな あの人絶対。
ニブちんの蓮くんは、わかってないだろうけど。
「てか、蓮くんは僕以外の誰とも結婚しちゃダメだからね!」
「するかボケ。俺ホモだっつーの。お前ともする気ないし、つか男同士で何が結婚だよボケ」
「精神論だよ。現実的なこと言わないで」
抱きしめた蓮くんの背中を下から上に指先で撫でると、ビクビクと腰を震わせる。
「夢、ばっか・・・みてられっか」
「何それ。なんでそんなこと言うの。蓮くんまでなんかあった?」
「別に。・・・俺は、元からこうだし」
知ってる。
蓮くんは文句を言う割には何でも受け入れちゃうところがある。結構誰にでも甘いし、自己主張があんまり無い。
一見、何でも来いで器が大きいようにも思えるけど、それは全てを諦めているようにも見える。何にも期待していないかのよう。
でもね、蓮くん。僕が知ってるのはそれだけじゃないんだよ。
「結婚なんかできなくても、ずっと一緒にいれば似たようなもんでしょ」
「・・・まあ、そうかもしんねえけど」
「僕は、別れるつもりで付き合ってなんかないから。蓮くんも同じ気持ちでいてくれたら嬉しい」
「え・・・、」
ぱちくりと目を丸くしてすぐに俯いてしまう。
何でもない風を装ってるけどバレバレだよ、嬉しいって思ってるのが。
もっと素直になって欲しい。僕を信じて欲しい。
でも僕はまだ未熟だから、きっと何を言っても何をしても蓮くんに信じてもらうことは難しいと思う。
だから、少しずつ。少しずつ確実に慣れさせなきゃ。僕に愛されるってことに。
蓮くんが何を思ってて何を諦めてたって、離れられなくしてしまえばいい・・・
「そーだ。奏汰、腹減らね?」
「えっ、ああうん、そういえば減ってる」
なんだよう、今からがいいところだったのに。
軽めのキッスから入って蓮くんの腰が抜けるまで咥内を撫で回してやろうと思ってたのに。
でも空腹なのも事実。外泊届を出したから宿舎で夕飯食べて来なかったし。
「五十嵐に教えてもらってカレー作ってみた。俺も料理くらいはしなきゃと思って」
「ええっ!? 蓮くんが作ったの!? 怪我とかしてない!?」
「してねーよ、俺を見くびるな。しかもけっこー美味くできた」
嘘だろ。蓮くんが料理を? 素麺をグダグダに煮込んでしまうあの蓮くんが、包丁の使い方も知らなかったあの蓮くんが、カレーを?
ちょっと待ってろ、と言って蓮くんはキッチンカウンターへ。
冷蔵庫から、鍋ごと入っていたカレーを取り出して温めている姿はどこかぎこちない。
五十嵐さんに教えてもらったってのが気に入らないけど、きっと玉ねぎとか人参とか雑にカットして大きかったりするんだろうな。うんでもそれもきっと可愛い。
蓮くんの手料理なんだか嬉しいな。
あっ、テンションが上がってつい五七五(字余り)のリズムを刻んでしまった。
待つこと5分。
「できたぞ」
スパイシーな香りを漂わせて、蓮くんがテーブルに運んで来てくれたのは
「なにこのオシャレ感!!」
僕が想像していたのとは全く違うビジュアルをしたもの。
確かに玉ねぎも人参も入ってる、予想よりは小さくカットされてるけど。けどそれ以外にもオクラや形を残したトマトや手羽元肉・・・てか米が無い!
「どうだ。カフェでバイトしてる五十嵐直伝だぞ」
得意気に両手を腰に当てる蓮くん。
すごく美味しそうだよ、うん・・・。でもね、僕の中のカレーはこれじゃないんだよ~!
「いただきます・・・」
「おう」
ドヤ顔の蓮くんに何も言えず、ロスト白米のカレーをスプーンで掬って口へ運ぶ。
「美味しい」
嘘じゃない。でもじゃがいもはどこ? りんごと蜂蜜がとろーり溶けたあの素朴な風味はどこに隠したの? 米は? どれも見当たらないよ・・・。
「やった! お前カレー好きだもんな。あいつレシピ置いてったし意外と簡単だったからまた作ろーっと」
ウキウキな蓮くん。ハイ可愛い。
くそぅ、五十嵐さんめ。余計な事を・・・。
僕は別皿にのせられたナンを齧って、残念な気持ちと一緒に噛み締める。
「蓮くん、今度は僕と一緒に作ろ?」
「そうだな。前はメシ全部奏汰に任せて、結局一緒に作ってなかったもんな」
「うん。それに、蓮くんが料理頑張るのは僕のためなんでしょ? これからもずーっと一緒にいるんだから、僕の好きな食べ物も全部知っといてもらわないとね」
「ずっと一緒って・・・そんなの、わっかんねえだろっ! あと別に奏汰の為とかじゃねーしっ」
ぷいっとそっぽを向く蓮くんの耳が赤くなってる。
素直じゃないのがこんなにも尊く見える大人って罪でしかないよ。
信じてもらえなくても、蓮くんが欲しい言葉ならいくらでも言ってあげる。
「好きだよ蓮くん、僕はずっと一緒にいたい」
一生をかけて蓮くんを好きでいるから、死ぬ間際には僕のことを信じてね。なんて言ったら、さすがに重いかな?
ともだちにシェアしよう!