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第46話 S男vs女王様 1

ーーーーーーーー 警察学校入校から3ヶ月。 週末は毎週のように家に帰り、蓮くんとの週一の逢瀬にも慣れてきた頃。 久しぶりに前田くんから「たまには飯でも食おう」と連絡をもらって駅近くのファミレスで待ち合わせる。 蓮くんとの時間が削れてしまうのは嫌だったけど、当の本人が「たまには俺以外とも遊んで来い」と言うので渋々僕はここにいる。 何気なく見た窓の外、数ヶ月前と変わらない前田くんが僕に気付いて手を上げる。 早足で店内に入って来る彼に、なんだか少し嬉しいような気分になる。久しぶりに会う同級生だからかな。僕って単純だ。 「よ、元気してた?」 テーブルの向かいに座った前田くんはメニューを開く。 「うん。前田くんは?」 「あーまあまあかな。大学入ったらもっと遊べるかと思ったけど、やっぱなぁ・・・なんつーか、縛った時DKのほうがイイ反応してくれるんだなって実感したわ。けど流石にもう高校生に手出せないしな~」 何の話だ。とにかく元気そうなのだけはわかった。 「メニュー決まった? ボタン押していい?」 「ちょっと待って、豚肉か鶏肉かで迷ってる・・・ってアレ、蓮くんじゃないか?」 「え・・・」 前田くんが指差す窓の外の通りを見ると、見覚えのある赤髪の男に肩をがっちり抱かれた蓮くんが歩いている。 「はあっ!? あんのリンゴ頭! 僕が帰ってる週末に堂々と蓮くんを連れ出すなんて許せない!」 「あっ、おい中谷!? ちょ・・・、 すいません、注文まだなんで帰りますっ」 前田くんはホールにいる店員さんに頭を下げつつ、店を飛び出す僕の後を慌てて追ってくる。 「そこの二人組、ちょーっと待ったぁ!」 僕は猛ダッシュで仲睦まじく歩く蓮くんと五十嵐さんを追い越し、両手を広げて進路を塞ぐ。 「あれっ、奏汰? メシこの辺で食う予定だったんだ?」 五十嵐さんに触れられていることを悪びれる様子も無い無慈悲な蓮くん。 「うん。そこのファミレスで」 ってそんなのどうでもいい! 「僕の居ぬ間に即五十嵐さんと会うなんて・・・。はっ!まさか蓮くん、五十嵐さんと会う為に僕を食事に行かせたとか!?」 「はあ? んなワケねぇだろ。五十嵐はさっきウチに来たんだっつーの。暇だし飲みにでも行くかって出てきたとこだよ」 ほう・・・、飲み、ですか。確かにまだ未成年の僕とは一緒にお酒を嗜むなんてできないですもんね、どーせ僕とは! 「奏汰も一緒に行く? まあ、お子ちゃまはジュースしか飲めないだろーけど」 憎たらしい女顔がニヤリと僕を見る。 ぐぬぬ・・・、こちとら法令遵守の鑑にならなければいけない公務員だ。未成年の飲酒なんてもってのほか、こんな安い挑発に乗せられちゃいけない。 「蓮くんと五十嵐さんを二人で飲みに行かせたくはないですが、僕も友人と約束がありますので。とりあえず蓮くんから離れてください。キープディスタンスお願いします!」 「ハイハイ。ほんっと心が狭いよな、奏汰は」 「あっ! なにもっとくっついてんですか離れてってば!」 「おい、中谷っ。急に出てくなよ・・・てか足早っ」 遅れて来た前田くんが、息を切らして腰に手を当てる。 「げ、前田」 「あからさまに毛嫌いしないでくださいよ。ども。ご無沙汰してます」 ガムテで巻かれて犯されそうになったのがトラウマなのか、前田くんを見た蓮くんは肩を抱く五十嵐さんに自らくっつく。 ガーン・・・。なんでだよ・・・。 ホントなら五十嵐さんのポジションは僕のはずなのに。ショック・・・。 「奏汰の友達、カッコイイじゃん。そだ、俺奢ってやるからみんなで行かない?」 「え、いいんすか?」 「いーよいーよ、人数多い方が楽しいし」 「あざーす」 五十嵐さんと前田くんは勝手に盛り上がり始める。 「一緒なら奏汰も無駄に嫉妬しねーだろーし、蓮も知り合いなら大丈夫だろ?」 「俺は・・・奏汰がいいならそれで」 五十嵐さんの腕の中で言うセリフじゃないような・・・。 でも僕は蓮くんと一緒にいれる時間が増えて素直に嬉しい。 「では、ここからは彼氏である僕が蓮くんと・・・」 「あのさぁ奏汰、彼氏だからって俺と蓮の友情邪魔していいと思ってんの? ちょっとは我慢しろよな、ガキかよ」 五十嵐さんは蓮くんを離すつもりはないらしい。 くっ、友情だって~? 白々しい、絶対蓮くんのこと好きだろこの人。 なぁにが「無駄に嫉妬しないだろ」だよ、妬かせる気満々のくせに! 「どうせ僕は子供ですよ! すぐ妬きますよ!」 「奏汰、そんなに怒んな。五十嵐もムキになんなよ。俺になんかすんのはいいけど、奏汰イジんのはやめろ」 「は~い」 調子に乗って蓮くんに頬ずりまでかます五十嵐さん。 それより問題なのは蓮くんだ。僕を庇ってくれてるつもりなのかもしれないけど、五十嵐さんに甘過ぎない!? 蓮くんが『なんか』されたら、いちばん悲しむのは僕だってことわかってないよ・・・。 ゼロ距離の蓮くんと五十嵐さんの背中を悶々と見ながら、前田くんと並んで歩く。 飲み屋街から細い路地を抜けあまり人気の無い通りに出ると、大人の雰囲気を漂わせた小さな店へと入る。ここっていわゆるバー?ってとこなのかな、初めて来たからなんか緊張する。 「あら~、『れんカレン』じゃなぁい。いらっしゃい」 カウンターの向こうのイカつい男性が胸の横で両手を振っている。 「あんた達ふたりでいるとほんと眼福ねぇ♡アラっそっちのふたりもイイ男じゃないのぉ♡♡」 「ママがカレンに会いたがってたから連れてきた。俺いつもの。カレンにはなんか甘いヤツ、そっちの二人にはノンアルでなんか出してやって」 カウンター席に座ると五十嵐さんは慣れた様子で注文をする。く、悔しいけどスマートでカッコイイ・・・! 入口からカウンターまでの短い距離を、歩幅10センチくらいでちょこちょこ歩いて来た自分が恥ずかしい! てか蓮くんてここでは『カレン』て呼ばれてるの? 可愛いな~。 ママと呼ばれたイカついオジサンは、スイッチが切り替わったようにシェイカーを振って、あっという間に僕達4人の前にきれいな色のドリンクが並ぶ。 この人もカッコイイぞ。きっとオネエってやつなんだろうけど、振る舞いが大人ですごくカッコイイ。 「いただきます・・・」 爽やかな青色に甘くてほのかに苦味のある炭酸ジュース。こんなの飲んだことない。くうぅ、これが大人の世界なのか・・・。何もかもがカッコイイ! 「なあに? 今日は4Pでもするつもりなの?」 「よ、よんぴいっ!?」 ママの質問に度肝を抜かれる僕。 なななんだよよんぴーって! 大人って、大人って・・・ 「こいつとはそんなんじゃないって言ってるじゃん。ただ飲みに来ただけ。それに俺、そういうのやめたんだ」 五十嵐さんが真面目に答えて、僕は少し安心する。 よかった、本当に蓮くんとはそんなんじゃないんだ。だったらスキンシップくらいは我慢しなきゃな、それが大人の余裕ってもんだ。 カッコつけてグラスを傾ける僕を、蓮くんが目を細めて見てる。フフ、僕もすぐに大人になるからね、待っててね蓮くん!

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