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第48話 S男vs女王様 3

執拗に咥内を弄るキスに五十嵐の膝が震える。 もう何分間してると思ってんだ。唇がふやけてしまいそうだ。しかもこいつ、俺の弱いとこばっかり・・・ セックスするならキスは絶対にして欲しいと思う。抱き合ってる時だけでいい。散々焦らした後の相手に、余裕も無く必死で求められるのが好きだ。 こんな風に与えられるみたいなキスは、知らない。 掬い上げるように舌の裏を擽られ、五十嵐の口の端からどちらのかもわからない唾液が溢れる。 「ふ・・・っ、ぅ」 思わず漏れる吐息と同時に膝を折りそうになってフラつく五十嵐を前田が支える。 「しっかり立っててください」 「立ってる、だろ」 「座りたいですか? それとも押し倒してほしい? ああ、質問はしないほうがいいんでしたっけ」 「おま・・・性格悪い!」 「五十嵐さんから素直に強請られれば応えますけど」 クソ、本当にイイ性格してるよコイツ。 「せっかくベッドあんのに使わないわけ?」 「可愛いのは顔だけですか。まあ強気なのは新鮮でいいですけど」 マジで生意気! ムッカつく! ぜってえ吠え面かかせてやる、ベッドの上でな!! 前田は全て脱がせた五十嵐の片手を自由にすると、ベッドに仰向けになり腹の上に五十嵐を跨がせる。 「こうしてると女王様に支配されてる感じしますね。虐め甲斐がありそうです」 「そこまで言うなら、前田くんのSっ気見せて貰おうかな。縛るなり叩くなりしていいよ」 絶対屈服してやんねーけど! にこやかな表情に怒りのマークを浮かべる五十嵐。 そんなのはお構い無しの前田は、五十嵐の片手からぶら下がる手錠の先を彼の足首に繋ぐ。 五十嵐は右手右足が繋がれた状態になる。 「こんなんじゃ俺動けちゃうよ? いいの?」 「動けるけど逃げるまではできませんよ。多少抵抗してくれた方がこっちも楽しめます」 「マジいい趣味してるよ前田くん」 腰を掴んだ手が脇まで滑り上がってくる感触に五十嵐は小さく反応する。 「引き締まった体してますよね。中イキしたらココ、凄くいい動きしそう」 腹筋を指で撫でられ、思わず力が入る。 「ぅ・・・、・・・で、いつになったら酷くしてくれんの?」 「質問は嫌いじゃなかったんですか」 上半身を起こした前田がまた五十嵐の唇を塞ぐ。激しさの欠けらも無い労わるような口付けがもどかしく感じる。 前田のキスは心地が悪い。 まるで恋人のように扱われてるみたいでムズムズする。大切にされているんだと、勘違いしてしまいそうになる。 「顔が良いと、感じてる表情も綺麗なんですね。ずるいなぁ」 「・・・、」 言われてはじめて、五十嵐は自分が情けない顔を晒していたと気付いて恥ずかしくなる。 「いっいつまでちんたらキスしてんだよ! 早くしろって!」 「してますよ。あなたにはこうするのが一番効果的だと思います」 仰向けに倒された五十嵐の体に、前田の重みが押しかかる。 顎の先から耳までを辿った前田の唇が五十嵐の耳朶を食む。舌先が耳の入口に栓をして、くちゅりと脳を直接舐められているかのような感覚。 「きも、ち悪ぃ、」 「だったら抵抗したらどうです? 左半身は自由ですよ」 わかってんだよそんなの! けどこんな生温い触り方なんてされたことねえからどう抵抗していいのか戸惑う。 それだけじゃない。こうされるのが嫌じゃないから困る。こいつが言う通り、俺は優しくされるのが怖いんだ。委ねて縋って、この人しかいない、と思ってしまうのが・・・ 手と繋がれ伸ばすことができない立てたままの右足。その内側を前田の手のひらが滑る。手の甲が五十嵐の強ばった中心を掠めて胸元を弄る。 確実に感じるところをあえて避けながら肌の上を撫でられ、五十嵐はもどかしさで自分の股間へ手を伸ばす。 しかしその手はすぐに捕まり、前田の手でベッドに縫い付けられてしまう。反対の手を伸ばしてみても、足と繋がれている為に膝を外側に倒されると自分のものに触れるギリギリのところで届かない。 「抵抗しか許可してないですよ。自分で触ることは許しません」 「こんなの、違うだろ!」 「違う? まさか拘束したり物理的に調教するだけだと思ってるんですか」 「それ以外なにがあんだよ」 「俺は五十嵐さんに興味があります。あなたの弱さを隠した強気なところ、顔と体、アンバランスさが気に入ったんです」 「気に、いった・・・?」 とことん生意気だ、と五十嵐は心底思う。 成長して男らしくなった体は女のような顔とは不似合いでコンプレックスだった。だからこそ相手にリードされるセックスは避けて来た。動けなくした相手を極限まで焦らして解放すれば、バランスの取れていない顔と体を気にもとめずに求めてくれる。 蓮のように白く細く中性的な体つきに憧れた。純粋さにも。無条件に愛してくれるパートナーにも。自分が欲しいものをあいつは持っている。全てに惹かれたんだ。初めて抱かれたいと思うよりこの体で抱きたいと思った。 なのに・・・ 「虐めるより、愛してあげたい。そう思うのはいけませんか?」 俺と同じような体格、日焼けした肌、全てを見透かしたような瞳。 心臓がキリキリと痛い。 臣兄よりも好きになれる相手は蓮しかいないと思ったのに、こんなに簡単に別の奴に気持ちを引っ張られるなんてありえないだろ。 「ついさっき初めて逢った奴に、愛してあげたい? 軽いなお前。遊び相手にはちょうどいいけどな」 「そうかもしれませんね。遊び相手になるかどうかは、後で五十嵐さんが決めてください。俺はあなたに惹かれてますから、女王様」 そう言った前田は五十嵐に優しく触れる。 抵抗は出来なかった。 しなかった、というのが正しいかもしれない。 それは『愛されてみたい』と無意識に五十嵐が思ったからなのかもしれない。 ──────数ヶ月後 「今日はどうして欲しいですか?」 「・・・優しいのがいい」 「この前は尻を叩かれながら何度もイッてたのに」 「あれはっ・・・、お前だから許すけど本当ならああいうのは、されんのは苦手で・・・」 「わかってます。俺の趣味に付き合ってくれて、愛されてるんだなあって実感してますよ」 「わかってんならいい。恋人がドSだと、都合のいいこともあるしな」 臣兄にされたことなんて可愛いもんだったな。今じゃこいつにされることで頭がいっぱいになって、過去なんて思い出せないくらいになってしまった。 「俺が全部上書きしてあげますよ、女王様」 考えてることも簡単に見透かす年下の恋人が憎たらしい。 「好きです、佳廉さん」 「・・・うん」 兄を許していいんだと、蓮が教えてくれた。 誰かを心から求めていいんだと、奏汰が教えてくれた。 そして愛されるって事を、こいつが教えてくれた。前田の愛し方は時々激しすぎる気もするけど・・・ 過去に囚われた自分はもういない。 恋人になったというのに、強気な自分が前田を好きだと言い出せないでいるだけ。 今日こそは言おう。俺も好きだ、って。 そして、こいつを下の名前で呼ぼう。 今日こそは──────

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