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05 「……どうすりゃいいんだ」

『――まやりん☆、今でぴょにゅ!』 『うんっぴょにゅちゅるん! 悪いコどこのコ彼方のコっ、いくよっまやりん☆すぷらーっしゅ!!!』 「キターーーーっ!! 『まやりん☆すぷらーっしゅ!!!』!! わぁーっまやりん☆カッコイイよ~っ!!」 「………」 「ほらっ、所沢くんも一緒に応援しようよぉ! …って、あれ? 所沢くんどうしたの?」 「っ……今日もオレっ、負けそうっ…」 「えっ何にっ!?」  絶対に、『まやりん☆』よりも、オレがすぐるをメロメロにさせてやるっ!!!  あの誓いを胸に宿してから、早二週間。  外の寒さが本格的になっていくと共に、オレこと所沢真哉の心も寒さで覆われていくようなそんな日々を、悲しくも過ごしていた。  何故なら、  ――っ、恋のライバルでもあるまやりん☆こと『所沢まや』に、まったくもって勝てないからであるっ…!!! 『……ごちそうさま、でした』 『はいっごちそうさまでした。ふぅ…でも、今日はちょっと多く作りすぎちゃったかなぁ…?』 『っ、で、でもっ…美味しかったぞ、今日のペペロンチーノもすっごく良かった、から…さ』 『ほんとっ? ふふっ、やっぱり所沢くんにそう言ってもらえるのが一番嬉しいなぁ…!』 『! っ……あ、あのさ園田っ……明日は大学休みだし、その、よ……っ、良ければ今日ウチに泊まっ…!!』 『って、わあぁっもう九時になっちゃうんだ!? 急がないと十時から始まる「あにまにGO⇒」に間に合わなくなっちゃう!!』 『!? …は…え、あにま…?』 『あにまにゴーっだよ! 毎週金曜の夜十時からBSチャンネルでやってるアニメ中心の情報番組で、なんとっ今日のゲストがまやりん☆役の声優の荻之塚ゆめちゃんことゆめちーなんだよ!!』 『おぎのづか、ゆめ…ゆめちー…』 『そういうことだからっ、お風呂入ったりとか色々あるし、食器洗い終わったら僕は自分の部屋に戻るね! あっ、明日の夕食は、所沢くんの大好きなビーフシチューにするから楽しみに待っててね!』 『……ま、まやりん☆役の、せいゆう……ぐぅぅっ』 『――なっなあ園田、明日の日曜はスーパーのバイト午後の三時までなんだろ? その後特に予定ないんだったら、お、オレ時間合わせてスーパー行くからっ…その、一緒に夕飯の買い物を…』 『あああっごめんね所沢くん…! 僕も所沢くんと一緒に買い物めちゃくちゃしたいっ、したいんだけどっ……その日は午後の五時から、渡利くんと「まや☆まじっ」のコラボカフェの予約が入ってて、一緒に行くことになってるんだ!』 『!? …こ、こらぼかふぇ…?』 『うんっ、アニメの世界観やキャラクターをイメージした食事ができる場所でねっ…』 『まや☆まじっ、て…まやりん☆、か……わたりって、確か…大学のオタク仲間の…』 『そうっ渡利恭くん! 前に一度大学で紹介したよねっ……ほんとごめんね、また今度絶対一緒に買い物しようね! 絶対だよっ!!』 『っ…まやりん☆の、カフェ……しかも、他のヤツと一緒……うぐぅっ』 『……っ、お、お~い園田、朝だぞぉ……園田っ、園田ってば起きろよっ! ……っ、す、す…すぐる起きろっ…♡♡ ……な、なんちって、へへ♡♡♡』 『んん~むにゃむにゃ』 『………おい、おいすぐるっ起きろってば!!』 『ふ、ふへへへっ…すぴー』 『っ、だあぁからっ起きろっていってんだろがすぐっ…』 ♪~『こらこらお寝坊さんっ、早く起きないとまやの魔法くらわしちゃうぞぉ! いくよっまやりん☆すぷらーっしゅ!!!』 『っ!! …んん~っ! ふあぁ~、もう朝かぁ…!』 『!!?』 『ふふっ、まやりん☆今日も起こしてくれてありがとう…って、わっ!? 所沢くんどうしたのさっ朝からそんな驚愕顔して…!?』 『っ……いや、おはよう…園田』 『あっうん、おはよう所沢くん! ……そういえば…へへっなんか僕、夢で所沢くんに下の名前で呼ばれたような気が……っ、なんてっ……ん? 所沢くん? 所沢くんってば…!』 『ふっ、ふははっ、オレの声よりも…まやりん☆のアラームでって……うううっ』 『――いらっしゃいませっ……っ!!?』 『所沢くんバイトお疲れ様~! 今日のお仕事って午前中で終わりだよね? あと少しだし、よかったら一緒に帰りませんか?』 『!? えっ…あっ、え、それって…っ、わざわざオレのむっ迎えを…』 『ここでは大きく言えないんだけどね……実は、別のコンビニ…「エーソン」の方でまや☆まじっのくじ引きキャンペーンやってて、そのくじを引きにいった帰りだったりするんだ…!』 『――…く、くじの…帰り…』 『って言っても、エーソンとここの「パミリ―マート」の間にウチのアパートあるから、実は遠回りだったりするんだけどねっ…えへへ…っと、お客さんだ。所沢くんレジにお客さんっ、お客さん来てるよ…!』 『っ…エーソン、まやりん☆のくじっ……ぬぐぅっ』 『えっ!? こっ、このたまごサンドっ、所沢くんが一から作ってくれたの…!?』 『お、おうっ……オマエ、たまごサンドが一番好きって言ってたろ…っ、だからそのっ、園田みたく上手く作れなかったけど、いつものお礼っていうか……』 『えええっ…!! うわわっ、どうしようすごい嬉しい!! わぁっ、所沢くんのはっ初めての手料理を食べれるなんて……っ、ありがとう、僕すっごくすっごく嬉しいよぉ…!!』 『っ、大袈裟だろ……でも、オマエの為に…おっ、オレのあ、あ、愛を――っつぅ!』 『!? どうしたの所沢くん…って、わっ血が…!?』 『いや…包丁で切ったところが、また染みてきて……やっぱ、安モンの絆創膏じゃダメだな…チッ』 『っ…その傷、僕のせいで……っ、所沢くん手ぇ貸して! 僕がいますっごい魔法かけてあげるから…!!』 『へっ……!? ちょっ、手っ…つか、まっ魔法ってまさかっ、く、口で消毒とかそういうっ…』 ペタリっ 『――…なに、これ…』 『ふふふっ、これはね~アニメ本編内でも実際使われてた、まや☆まじっの特製絆創膏だよぉ! この星の絵柄が可愛いでしょう? 僕の宝物で、自分でも滅多に使わないんだけど……へへっ所沢くんにだけは、特別に魔法かけちゃうよ!!』 『……さんきゅー、な……はは、まやりん☆に、オレのケガ…治してもらっちまった……ふぬぅぅぅ』 『えっ、えっ所沢くんっ!? どうしたのっ、やっぱりまだ痛い!? 所沢くぅぅぅんっ…!?』  ――…ああもう…本当、どうすりゃいいんだか。  ここ二週間近くの戦歴……数々の敗戦の日々を思い出しながら、オレはテレビの画面の向こうで華麗に悪の組織と戦っている、オレの恋敵――まやりん☆、所沢まやの活躍をヌボーっとしながら見つめていた。    何をするにも、何をしようとも……オレの好きな相手、園田すぐるの傍らにはいつも『まやりん☆』という、強大すぎる推しが必ず存在しており。  こんなのっ……こんな恋敵とか、 「――っ、絶対…倒せっこねぇじゃんかぁ…」

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