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第6話 椿姫 参

「ふぁ…あっ」 「ここ…弄ったことある?」 俺は必死に首を横に振った。分からないながらも、洗浄だけは済ませてきた。そこをセックスで使うなんて信じられず、はじめは痛みしか感じなかったが、陽さんに咥えられた前と同時に弄られると、徐々に初めての感覚が沸き上がってきた。陽さんの指が、俺の中で淫靡に蠢く。 膝が笑う。 腿が震える。 陽さんの舌が生み出す卑猥な音が聞こえる。 前と後ろを同時に攻められ、理性が吹っ飛びそうだった。 「あき…さんっ…も…立ってられな……っ」 このままだと、陽さんの口の中に出してしまいかねない。 陽さんは口を離して、俺を見上げて微笑した。ふらつく俺に、布団のうえにうつ伏せになるように促して、陽さんはさらりと着物を脱いだ。 倒れるように布団に手をついた俺の後ろを、陽さんが両手で割った。 ひっ、と声が漏れてしまった。恥ずかしい。覚悟していたとはいえ、どうにもいたたまれない。 陽さんの舌が、そこに滑り込んできた。ぞくぞくして、勝手に腰が震える。 ぴちゃぴちゃと、陽さんの舌に弄ばれる音がさらに快感を呼んだ。 「はじめてなんだね…きつくしまってる」 「んうっ…」 「大丈夫…まかせて。怖くないから」 陽さんの舌が抜かれただけでイってしまいそうだったが、陽さんのそれが触れたとき、今までで一番心臓が大きな音を立てた。 入り口に当てられただけでぞくぞくする。期待と不安が内混ぜになる。 ぬぷ、と肉を割って、陽さんが挿入ってきた。 下腹部が苦しい。同時に、鳥肌が立って、背中が勝手に反り返る。 ゆっくりと奥まで満たされて、交互にやってくる苦しさと気持ちよさに必死に堪えた。 陽さんが、俺の耳元で甘く囁いた。 「声、出していいからね」 奥まで挿入った陽さんのものが、ぬるりと半分抜かれ、次の瞬間、激しく突き上げられた。 自分でも聞いたことのない声が、陽さんの腰使いと同じタイミングで繰り返し漏れた。ずちゅ、ずちゅ、と耳を覆いたくなる恥ずかしい音が響く。 もう痛みはなかった。ただ、未知の快感だけに溺れた。 女を抱くことで味わった快感なんて、比べものにならない。 自分は、抱かれたい男なんだと、この夜知った。 それから仰向けにされ、陽さんは俺の顔を見ながら犯した。 陽さんは雄の顔をしていた。色気がだだ漏れて、見ているだけで痺れた。反して俺はきっと、だらしのない表情をしているのだろうと思った。 この人は、俺を抱きながら、気持ちよくなっているのだろうか。 こんな色っぽい顔をするのも、仕事の一環なのか。 気持ちがいいのは俺だけなんだろうか。 ああ、この人に、また抱かれたい。 何度も何度も射精した。疲れ果てていつの間にか眠っていたらしい。気が付けば布団のなかでひとり、夜が明けていた。 脱ぎ散らかしたはずの服がきれいに畳まれて枕元に置かれている。 裸ではあったが、身体は誰かが拭いてくれたようなあとがあった。 陽さんが何度も俺の中に出した精液は、それは勘違いだったと思えるほど、きっちりとかきだされていた。 身体を起こすとわずかに残る鈍い痛みが、あれが夢じゃなかったと知らせてくれた。 服を着て座敷を出たが、陽さんはどこにもいない。 もう一度会いたかった。 顔を見たかった。 亮介と、呼んでほしかった、あの声で。 しかし玄関についても誰もおらず、自分の履いてきたスニーカーだけが揃えて置いてある。 こころなしか、靴についた土がや汚れが落ちて、きれいになっている気がした。 靴を履いて、格子戸を開けた。 よく晴れて、空気が冷たい冬の朝だった。 あきさん、と小さく呟いて門を出たところで、俺はふと気になって振り返った。 玄関のすぐ横に立つ、今は枝だけの桜の樹のしたに、陽さんがいた。 あの白い椿の着物で、俺に向かって頭を下げて見送ってくれていた。 この人に恋をしても、決してその想いは届かないのだと、俺はその時知った。

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