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第13話 筆 参
言われるままにベッドに上がった。
雄の香りが充満していて、痛いほど膨張した僕のそこがさらに熱くなる。
夕さんは一糸纏わぬ姿で、僕を迎えた。汗で髪が額に貼り付き、余計になまめかしい。陽さんが僕を後ろからそっとハグして、シャツのボタンを外してくれた。同時に夕さんに濃厚なキスをしてくれる。舌が入り込んできて、どうしたらいいかわからなくなった。
そうしているうちに、シャツはもちろん、ズボンも脱がされていて、パンツだけになっていた。脚の間に陽さんの手があった。布越しに、先走りで濡れてしまった先端を、やわやわと愛撫される。
陽さんの指で、下着を下ろされた。顔に一気に血液が集まった。
脚を閉じようとしたところを、後ろから優しく膝を止められる。
「何も心配はありません。お任せください」
陽さんが言うと、夕さんも同意するように微笑んだ。
夕さんの顔がすっと下に降りた。僕が焦るひまもなく、夕さんの口が僕の性器を咥えこんだ。
「わっ…!」
信じられない光景に、思わず大きな声を出した。夕さんの温かい口の中が、気持ちよすぎた。
それだけではなかった。
自分でも触ったことのない場所を、陽さんの指で開かれた。細い指先が、僕の後孔の中を開発しようとしていた。
「うっ、うう…」
出したことのない声も出た。身体がひとりでにがくがく揺れはじめて、知らない感覚に気を失いそうになる。怖い。どうにかなってしまいそうだ。
落ちてしまう直前に、後ろから陽さんの指が抜かれ、女の子のような高い声が漏れてしまった。
「伊織さま…」
夕さんが僕の名前を呼んだ。脚を恥ずかしそうに広げ、僕を誘う。
陽さんが、動けない僕の背中を支え、さあ、と耳元で囁いた。
おそるおそる近づく僕を、夕さんは恍惚の表情で待っていた。
そこに先端が触れただけで、心臓が破裂しそうに脈打っている。陽さんが僕の背中に手を添えて、腰を進めるように促した。
思い切って夕さんの中に入ると、柔らかで温かい肉壁に全てを飲み込まれた。思わずため息が出た。
陽さんの手に導かれて、ゆっくり腰を動かすと、夕さんが甘い吐息を漏らした。
そこから先は、記憶が曖昧だった。
夕さんに挿入しながら、陽さんにも後ろから犯された気がするが、定かではない。
あまりにも刺激の強すぎる夜に、僕の身体は翻弄されるばかりで、ただ身を委ねることしか出来なかった。
朝日が差し込んで、まぶしさで目が覚めた。
あの激しく乱れたベッドの中で、ふわふわのガウンを着せられて、ひとりで眠っていた。
絵は。
僕は飛び起きて、キャンバスに駆け寄った。
目を疑った。
悩ましい姿を見ながら、時折目を奪われながら必死に描いた。
が、正直、上手く描けたかどうか、自信がない。
しかしそこには、ギリシア神話から飛び出してきたかのような美しい青年ふたりが、恍惚の表情でまぐわう姿が描き出されていた。
「これを…僕が……?」
信じられなかった。
自分の手が作り出したとは思えない絵。
そして、夢のような一夜。
男が好きな自分は、この先きっと経験できないと思っていたことを、極上の美青年ふたりによって体験させてもらえた。
そこには高額なサービスというだけではない、何かがあった。
僕はキャンバスを鞄にしまい、服を着て部屋を出た。
廊下をきょろきょろ見渡しても、夕さんも陽さんもいなかった。
あのふたりは、恋人同士なのだろうか。
そうであってほしい、と思った。幸せであってほしいと勝手に思っている。
あんな風に愛し合えるひとがほしいと、心から思った。
まず、ここを教えてくれた先輩に、絵を見てもらいたい。
あの絵を見て先輩は何て言うだろうか。僕のことを、見直してくれるだろうか。
いつか、先輩を好きだと言えるだろうか。
静かな玄関で靴を履いた。
そっと格子戸を開けると、気持ちのいい風が吹き込んできた。
桜の樹の枝が揺れて、花びらが舞う。
門を出る前に、もう一度入り口を振り返った。
桜の樹の下で、美しい恋人たちが口づけを交わしていた。
僕は、幸せな気分で門を出た。
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