13 / 25

第13話 筆 参

言われるままにベッドに上がった。 雄の香りが充満していて、痛いほど膨張した僕のそこがさらに熱くなる。 夕さんは一糸纏わぬ姿で、僕を迎えた。汗で髪が額に貼り付き、余計になまめかしい。陽さんが僕を後ろからそっとハグして、シャツのボタンを外してくれた。同時に夕さんに濃厚なキスをしてくれる。舌が入り込んできて、どうしたらいいかわからなくなった。 そうしているうちに、シャツはもちろん、ズボンも脱がされていて、パンツだけになっていた。脚の間に陽さんの手があった。布越しに、先走りで濡れてしまった先端を、やわやわと愛撫される。 陽さんの指で、下着を下ろされた。顔に一気に血液が集まった。 脚を閉じようとしたところを、後ろから優しく膝を止められる。 「何も心配はありません。お任せください」 陽さんが言うと、夕さんも同意するように微笑んだ。 夕さんの顔がすっと下に降りた。僕が焦るひまもなく、夕さんの口が僕の性器を咥えこんだ。 「わっ…!」 信じられない光景に、思わず大きな声を出した。夕さんの温かい口の中が、気持ちよすぎた。 それだけではなかった。 自分でも触ったことのない場所を、陽さんの指で開かれた。細い指先が、僕の後孔の中を開発しようとしていた。 「うっ、うう…」 出したことのない声も出た。身体がひとりでにがくがく揺れはじめて、知らない感覚に気を失いそうになる。怖い。どうにかなってしまいそうだ。 落ちてしまう直前に、後ろから陽さんの指が抜かれ、女の子のような高い声が漏れてしまった。 「伊織さま…」 夕さんが僕の名前を呼んだ。脚を恥ずかしそうに広げ、僕を誘う。 陽さんが、動けない僕の背中を支え、さあ、と耳元で囁いた。 おそるおそる近づく僕を、夕さんは恍惚の表情で待っていた。 そこに先端が触れただけで、心臓が破裂しそうに脈打っている。陽さんが僕の背中に手を添えて、腰を進めるように促した。 思い切って夕さんの中に入ると、柔らかで温かい肉壁に全てを飲み込まれた。思わずため息が出た。 陽さんの手に導かれて、ゆっくり腰を動かすと、夕さんが甘い吐息を漏らした。 そこから先は、記憶が曖昧だった。 夕さんに挿入しながら、陽さんにも後ろから犯された気がするが、定かではない。 あまりにも刺激の強すぎる夜に、僕の身体は翻弄されるばかりで、ただ身を委ねることしか出来なかった。 朝日が差し込んで、まぶしさで目が覚めた。 あの激しく乱れたベッドの中で、ふわふわのガウンを着せられて、ひとりで眠っていた。 絵は。 僕は飛び起きて、キャンバスに駆け寄った。 目を疑った。 悩ましい姿を見ながら、時折目を奪われながら必死に描いた。 が、正直、上手く描けたかどうか、自信がない。 しかしそこには、ギリシア神話から飛び出してきたかのような美しい青年ふたりが、恍惚の表情でまぐわう姿が描き出されていた。 「これを…僕が……?」 信じられなかった。 自分の手が作り出したとは思えない絵。 そして、夢のような一夜。 男が好きな自分は、この先きっと経験できないと思っていたことを、極上の美青年ふたりによって体験させてもらえた。 そこには高額なサービスというだけではない、何かがあった。 僕はキャンバスを鞄にしまい、服を着て部屋を出た。 廊下をきょろきょろ見渡しても、夕さんも陽さんもいなかった。 あのふたりは、恋人同士なのだろうか。 そうであってほしい、と思った。幸せであってほしいと勝手に思っている。 あんな風に愛し合えるひとがほしいと、心から思った。 まず、ここを教えてくれた先輩に、絵を見てもらいたい。 あの絵を見て先輩は何て言うだろうか。僕のことを、見直してくれるだろうか。 いつか、先輩を好きだと言えるだろうか。 静かな玄関で靴を履いた。 そっと格子戸を開けると、気持ちのいい風が吹き込んできた。 桜の樹の枝が揺れて、花びらが舞う。 門を出る前に、もう一度入り口を振り返った。 桜の樹の下で、美しい恋人たちが口づけを交わしていた。 僕は、幸せな気分で門を出た。

ともだちにシェアしよう!