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第2話

「それに、『さすが』といえば五人斬りを果たした先鋒だよ。冬治(とうじ)」 「は、はい!」  名前を呼ばれて、慌てて姿勢を正す。真正面に座っていた秋峰さんは、俺に、にっこりと笑いかけた。 「冬治は本当にすごいな。まだニ年で、しかも途中から未経験で入っていきなりこんな成績を出すなんて」 「や、全然す! 秋峰主将に比べたら」 「いやいや、俺より断然将来有望だ。どれだけ努力をしてきたのか分かるしな」  副将の天野さんも反応して、俺に笑顔を見せてくれた。 「そうだな、お前はよくやったよ! 柔道にこれだけ熱心になってくれて嬉しい」 「ああ。俺も嬉しい。これからも頑張れよ」  皆が暖かく笑ったり背中を叩いてくれて、嬉しくなる。  特に秋峰さんが。期待してくれているのが、言葉にせずとも目で伝わる。 ――あ、秋峰さん……! 胸がじいぃんとします……!  声もなく痺れていた俺は、ふと思う。 ――胸がじいぃんと……胸が……胸か。 「さて、じゃあ早速飯食うか」 『押忍!』  みんなの関心はすでに飯の前に移り、行儀よく手を合わせて挨拶をしている中、俺は前をちらりと盗み見る。  狙うはコップやビビンバの器に遮られた向こう側、夏用の制服で上二つボタンが開いたワイシャツから覗く、健康的な肌色の。 ――皆、本当にすまん。  皆が熱心に柔道部のために戦っている中で―― ――俺の本当の目的は。

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