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第32話

 半年程月日が流れ、新しい年度に変わる頃。  「黒田君! そう言えば、学校どうなってるの? バイト以外外出してる気配ないんだけど」田淵は黒田に引きこもり疑惑をかけている。  暴露し合ったあの日、お互いの生い立ちを知り共有できたことで、黒田が独占欲や嫉妬を隠さなくなった。 「ええー、俺、もう論文仕上げちゃたから、あとは就活以外することないよー。だから、極力外出たくない」  「ちょっとでもヒロキさんとベタつきたい・・・・・・」後ろからハグをして甘えてくる。 「引きこもってる僕がいうのも何だけど! 引きこもり! 良くない!」 「いや、ヒロキさんの引きこもりは大歓迎だよ!」 「うるさい!」  大型犬の躾は存外大変らしい。  枝垂れる耳が見えてきそうで、目を擦る。「ヒロキさんにうるさいって言われた・・・・・・」と半泣きになりながらも、ハグはやめてくれない。 「大学院まで行ってる理系の学生さんが、目標もなくそこらへんの企業に何となくで勤めようなんて思ってないでしょうね!」 「……いや、うーん。そんなことない、よ?」 「だって、復讐はやめたんでしょ! 他に何かやりたいことは?」 「うーん……」  生返事しか寄越さない黒田に、田淵は意を決したように立ち上がる。 「僕、ちょっと外に行って頭冷やしてこようかな!」  これは最近マイブームと化していることで、自ら引きこもっている田淵が外出の準備をすると、大きく取り乱す黒田に愛しさを感じるのだ。  予想通り「え? やだやだやだ、駄目だよ。一人で行こうとしてるでしょ」と苦しいほどに抱き寄せて離さない。   「だって、もったないことしようとしてるじゃん、黒田君。人生イージーゲームじゃなかったの」 「……最近、ヒロキさんすごい意地悪言うよね」 「自慢の彼氏だからこそ、堕落してほしくないだけ」  自分のことを棚に上げていることは重々承知している。  だが、これだけは譲れなかった。  「僕のことすごく大事にしてくれてるの、たくさん伝わってるよ。それに、何を不安がっているのかよく分からないんだけどさ、僕、黒田君本人に薬盛られるわ、抱き潰されるわ、結構大変な目に遭ってるんだけど」田淵はきつく抱き締められた腕をさわさわと撫でる。  多少の罪悪感は持ち合わせているらしい。  緩められたところを見計らって、正面に向き直り両手で頬を包んだ。  無言の肯定をもらって、田淵は続ける。「でも、僕は此処にいる。だから、安心して自分磨きしてほしいんだよ。——引きこもりの僕に、夢を見させてよ。こんな僕でも……飛露喜君みたいにカッコよくって、素晴らしい恋人ができるんだぞ、て」。 「ここで名前呼びとか——ずるい」  「使い所考えてるでしょ」とむくれるので、田淵は笑って誤魔化しておいた。 「目標があるなら、大企業でなくていいから、それに向かって頑張ってほしいな」 「ヒロキさんが養ってくれるの?」  その言葉に過剰に反応する田淵。 「ああ、今からでも養えるよ? その目標一本で頑張りたいなら、バイト、辞めちゃってもいいよ!」  「小さいくせに、やけに男前なヒロキさんは嫌い」ここでもまたむくれる大型犬の髪をくしゃくしゃに掻き回して、ご機嫌を取ってみる。 「大好きな彼氏には、あれもこれも頑張って欲しいものだよ、僕は! しかも黒田君、できる子じゃん」 「そりゃ、そうなんだけど」 (否定しない黒田君! そこが彼らしくて好きだな)  それでも田淵の肩に額を預けて、いやいやと擦り付ける。  

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