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第33話
「俺……ヒロキさんが思ってるより、すごい純愛してるんだよ?」
「初恋の相手がヒロキさんだし……」擦りつけたまま、顔を上げない。
続けて、黒田はいう。「それに、俺、も——ハジメテはヒロキさんだし、世間一般から言わせるなら、23で童貞卒業も……ね」。
(っああぁぁぁ! 愛しすぎるっ)
「だからさぁ、ヒロキさんは優先順位的に圧倒的1位なわけなんだ。それでいて、俺の打算的な部分も受け入れてくれて、最近は受け入れてくれるのはもちろんだけど、俺が言ってないヤツも分かってて受け入れてくれてるよね?」
尚も視線を合わせようとしない。黒田にとっては、後ろめたいことのようだ。
「……例えば、僕の食べるご飯に唾液入れたこと?」
「……ほら、やっぱり知ってる」
「炊き立てご飯じゃなくて、とろみのあるおかずに混ぜるあたりが、嫌がらせじゃないって思ったから、無理なく食べられたよ! でも、次見つけたら、やんわり黒田君に食べさせるのも面白そうだと思った……」
口元で笑いを噛んだような音で笑う。
背中をさすってやると、「揚げ物は? イイ?」とストレートに聞いてくる。
「流石に揚げ物にかけられてたら、食べずにそっと黒田君の皿と入れ替えさせてもらうかな」
「じゃあ、ヒロキさんの前で堂々とするね」
「やめなさい。それは愛情でもなんでもなくて、だたの意地悪だから!」
「ちぇ」
「はぁー……俺をこれ以上沼に嵌まらせて、どうしたいの……本当にもう、離してやれないし、もし離れても怨恨のある黒田の力を総動員させてでも連れ戻すから」と黒田は宣言する。
「本当だよ、そういう時が来たら、絶対するから」
腰に回された腕から強く引き寄せられる。
「ん? そういえば、既にその手は使ったことあるよね? 半年くらい前に」
「じゃあ、絶対するっていう根拠は立証済みということで。必ず連れ戻しますから」
「わお。……絶対、連れ戻してよ?」
ここでようやく田淵の肩から黒田の額が離れる。そして、互いの瞳しか映らない距離で、「言われなくても」と黒田はいう。
「……俺はね、休みが確保されてて、残業もないところに就こうっていう漠然とした希望があるんだ。だから、黒田の仕事なんかやりたくて手伝ってたわけじゃないし、のんびり此処でヒロキさんと一緒に過ごすって、譲れないものがあるから——」
「じゃあ、休みも出勤時間も自由にできる、社長さんをもう一回目指しませんか!! 動悸は不純かもしれないけど、そんなもんだよ、きっと」
「それは……黒田に戻れって言ってる?」黒田は目を丸くしていう。
「違う違う! むしろ、追い抜く勢いで起業しちゃおう! もともと素質あったんでしょ? だから、黒田の人は僕を探して欲しいっていう依頼を聞いたくらいなんだから、向こうは恐れてたんだよ!! 黒田を乗っ取らないっていう口約束を交わしているとはいえ、同じ黒田の人間だから、油断ならないって、きっと思ってる。 そう思わせる存在って、すごいことなんだよ!!」
「うまくいけば、いずれ余裕のある生活ができるよ!! 金銭面的にも、時間的にも」目を輝かせて黒田をけしかけた。
「黒田君ならできるでしょ?」
「そりゃ、業務経験はもちろんあるけど……軌道に乗るまでは自由出勤なんて夢のまた夢だよ?」
「だよねー。三年で軌道に乗れたらそれこそ敏腕社長だよね」
「うん」
「――もしかして、黒田君は、なれない、とか?」
「俺、大学院一年目で研究成果出してしまった男だよ? それに、俺のこの諦めの悪さをなめちゃいけないよ」
「――じゃあ、目標、定まったね」田淵はにんまりと笑った。
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