45 / 104
第44話
「移り香?!」慌てた黒田を見ても、もう止まらない。
「昨日らって、連絡の一本も来ないから・・・・・・寂しくなって、飛露喜君の匂いがする部屋でさりょーしてたら、幸せなきうんになれて、そのまま寝ちゃってらのに」
「起きたら、最悪なクサイ匂いして。飛露喜君、僕、しろと、しろとするから、どいて!!」組み敷かれたままの田淵がじたばたと暴れだす。
「だーめ。ヒロキさんは此処で、俺と今から仲直りえっちするの」
「絶対やら」
「――、可愛いけど、拒否は・・・・・・。俺、怖くなっちゃうよ?」
「それもやら」田淵は頑然という。
「今日は強情だね」
「僕が嫉妬してやってるんら! もうちょっと僕のご機嫌取りして!!」
「ふふ、はいはい分かりましたから。俺とえっち、してください」
「・・・・・・、今まで何してたのか、教えてくれたら」
「え。今の状況で言っても、きっと忘れてるよ?」
「ヒロキさん何かシラフじゃないし」黒田はまた優しく微笑み、大きな掌で田淵の頬を包んだ。
「忘れらい!! 早くいって!」
「――はぁ、我儘ヒロキさんも可愛いから言っちゃう」
そうして、事のあらましをつらつらと黒田は暴露してくれた。
「――はぁ!? どいつもこいつも人間ってもんがらってらい!!」
「・・・・・・顔真っ赤にして、酒飲みの風情してるよ?」
気が大きくなっている田淵を宥める。しかし、味方で居てくれる安心は計りしれず、愚痴を溢す田淵を愛でていた。
「で、僕のところには誰も来てないけど・・・・・・その秘書は無能らのかー?」けたけたと笑いながら匂いを移染させた女を嘲笑う。
「もうその人ことは置いておいて、そろそろ・・・・・・ね?」
田淵が健忘したように幼く笑っているところを、黒田は射抜くように見つめる。
「昨日は抱けなかったから――今から抱いてもいいですか?」男である黒田に妖艶さを感じて、田淵は一瞬でその視線から離れられなくなった。
しかし、最後まで保つどころか、前戯の序盤で気持ち悪さを訴えた。
黒田の介抱虚しく、便所で嘔吐を繰り返す。
「ごえんなさいぃ・・・・・・僕が、いたずらしたからバチがあたったんだぁ」
気持ち悪いのと、酔いと、さっきの甘さにやられて、胃が燃えるような熱さで悶え苦しむ。
「いたずらかぁ、俺を邪険にしたのは俺のせいでもあるから、もう怒ってないよ。だから、吐いてしまおう?」
「見ないで!! 吐く時は出てて――」
ともだちにシェアしよう!