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第45話――黒田――

 田淵の牽制は弱々しいもので、嘔吐感の方が強いらしい。  そうして、我慢の限界を迎えた田淵は、黒田に背中を擦られて暫く吐き続けた。  その吐瀉物は黒々しく、お世辞にも見られたものではなかった。 「ちょっと、ずっとこんなのばっかり出して・・・・・・ヒロキさん何を食べたの!」  嗚咽混じりに田淵は答えた。「――黒田君のお気に入りのラムレーズンが入ったチョコバー」。  しかも、4本を今日のうちに食べてしまったのだ。  聞けば、腹いせに食べたはいいものの、甘くて胃がむかついていたらしい。そこにラム酒入りのチョコで泥酔、といった具合のようだ。 (やることがすごい幼いけど、酒に弱すぎなのは新発見だな)  以前は缶チューハイを飲ませたとは言え、睡眠導入剤のカモフラージュするためのものであった。  ここまで弱いと、薬が効いていたのか、酒で酔っていたのか定かではない。 「全部出せた?」 「・・・・・・うん、ごめんえなさい――えっち、中断して」 「ああ! 大丈夫だよ、一緒に住んでるからいつでもチャンスはあるし!! またすぐ襲いますから、安心してください」  便所に差し込む夕刻の陽の光が、黒田の顔面に差し込む。  「菩薩・・・・・・」田淵は黒田自体が光を放っていると勘違いする。 「もう。酔っ払いは、ベッドでゆっくりしてて」  吐ききってスッキリした顔の田淵を連れてリビングに戻った。  水を飲ませて、一緒に映画を見て時間を潰した。    黒田は、土産物と一緒に帰宅したことを思い出す。 「あ、そういえば、コーヒーの専門店に行って、お詫びを買ってきたんだった。今日はもう飲めないけど、明日――朝イチで飲もうよ」 「そこまでフォローしてたなんて。仕事できる男はやっぱり違うね」 「惚れた?」 「僕が見込んだだけの男ではある!!」 「へへ、嬉しい」 「――わぁ、23歳の笑い方だ・・・・・・年相応の顔もたまには良いね!」  にんまりする田淵の頬を柔くつねって「童顔過ぎるヒロキさんには為し得ないことだね」と返した。 「・・・・・・」  田淵は拗ねずにいった。「まぁ、そこらへんの女性よりか弱い時もあるくらいだから・・・・・・それは情けない話なんだけど。最近はそのお陰で、黒田君が可愛がってくれてるんだ、て思ってるから、少しだけ、この体型も悪くないかな、て」。 「見当違いも甚だしいけど、自分に自信を持つことはいいことだよ!」  「やわこいヒロキさん」二の腕をやわやわと触る。 「チョコバーが詰まってます」 「ぷっ! 4本も食べたから、たしかに詰まってるかもね」 「ごめんね。わざと一番好きなヤツ食べちゃった」 「そこがまた可愛くて、堪んないよね。今日は襲えないんだし、煽るのは止めていただきたい」

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