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第47話

 黒田のチョコバー盗み食い事件から、3日が経った。  それから手を出される暇もなく、黒田は忙しなく外出していく。    言わずもがな、黒田の子会社手直し案件(偽)である。  子会社の社長が黒田の知り合いらしく、少し安堵したところに付け入られて、優位的なポジションを譲っているらしい。    リビングで優雅にコーヒーを飲む自分が正しいのかわからなくなる。   (このコーヒー専門店のやつだよね。苦味が増してて落ち着く味・・・・・・)  すると、珍しくインターホンが鳴る。ネット注文でも外にボックスを置いているため、外部の人間と顔を合わせるということはほぼ皆無だった。  田淵は心の準備をして廊下を歩き、玄関ドアの前にくる。    「前もこんな状況あったな」一年前を懐かしく感じながらも、覚悟を決める。唾を飲み込み、ゆっくり玄関ドアを開けた。 (やっぱり来た。万が一のために僕ができることはやった。あとはどれだけ・・・・・・芝居ができるか、だな)  「お忙しいところすみません。黒田宅に田淵様がご在宅と聞いて伺ったのですが・・・・・・田淵ヒロキ様でいらっしゃいますか?」タイトスーツを着た、キャリアウーマンのような女が立っている。  圧倒的なエリート感を匂わせてくる女に気後れするも、「そうですが」と正直に名乗りあげた。  そして、ゆっくりと開けたドアの隙間を縫うように、ずい、と入ってくる。  「お仕事のお話がございます」女はいう。しかし、田淵は近づいた距離で鼻がもげる程のどぎつい匂いに、顔を歪めた。  ――黒田に移染したことのある匂いと同一のものだったのだ。  その匂いで、一気に田淵の気は引き締められ、臨戦態勢をとる。 「お話、ですか」 「ええ、ここではなんですので、近くのカフェでお話を聞いて頂きたいのですが」 「・・・・・・分かりました。僕は準備があるので、待ち合わせでもいいですか?」 「かしこまりました。では、2時間後にAカフェでお待ちしております」  女は大人しく引き下がっていった。 「ふぅ・・・・・・クサイ人だったな。完全に敵だと分かると、少しはまともに話せる僕、ちょっと性格悪い?」  自室に行って数少ない外出用の服に着替える。それから、黒田の部屋のデスクトップ前に座り、電源をつける。  隠しカメラの存在は認知していたが、あまり追求も監視もしてこなかったが、今日はそれが役に立つ。 (いつも触らない分、疑われるリスクも減るだなんて、複雑だけど仕方ないよね)  田淵はカメラの動画を自分が出ていく前のものを繰り返して流すよう設定した。いつ確認するか分からないが、外出したことがバレると白であっても厄介だということは、学習済みだ。  2時間という猶予付きであったために、少し荒らが見えるルーティンの動画であるが、致し方ない。  用事で外へ出ていく久々の外出。ドアを開けて身体全部が外へ出た時、春のうららかな風が心地良く感じた。

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