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第48話

「お待たせしました」  戦の場であるAカフェに到着した。  「お待ちしておりました」と席を立ち上がり、一礼する。 「仕事のお話ということだったんですが、正直にいうと、僕、仕事してないんで、全く何の仕事の話か検討もついてないんですけど」 「あら、ご謙遜を。お一人で稼ぐ力がお有りではないですか、その力を是非我が社でも発揮されてみてはいかがと思いまして」 「どうしてこんな名指しで?」 「それを今からご説明いたしますね」  女のしたり顔を見せられて、ここから彼女のショータイムが始まるのだと知らされた。    「お話はよく分かりました」田淵は一通り聞いて、口を開く。 「つまり、僕のような稼ぎ方をしている人たちを集めて、メルマガ配信の提携をしてほしい、ということですね」 「はい。そちら側に黒田の名前が使用できるので、メリットではないかと思います」  田淵は考える素振りを一応見せておく。  もとより、答えは決まっているのだ。今更考える余地はない。 「・・・・・・うーん、僕は結構です」 「――はい?」 「僕の場合、大企業がバックについていると、逆効果なので」 (僕のことを簡単に出し抜けると思ってリサーチもろくにせずに来てるじゃん。案外楽なのは助かるけど、ちょっとバカにされてるし、失礼だなこのクサイ人) 「今後の展開としては、ベンチャー企業との提携を考えていて、そこで利権を全て譲渡するつもりです」  綺麗な顔を徐々に歪ませていく。田淵には綺麗な女の人の凄みを増した顔は、黒田の母親で見慣れていて、多少の耐性があった。 「どういうことです」 「単なるHP運営で稼いできましたが、一応『副業』をテーマにしているので、大企業と提携してメルマガ配信なんかすれば、それこそそちらに利潤があったとしても、僕には信頼性に懸念が置かれて収入の伸びが悪くなります。まぁ、それなりに貯蓄できたので、それでもいいのですが、いずれ提携を約束しているベンチャー企業にお譲りしようと決めているので、どちらにせよ、お断りさせていただきます」 (提供するようなHP運営の仕方をしていればの話だけど)  「玄関先でいうのもなんでしたので」と田淵は付け加えた。 「差し支えなければ、そのベンチャー企業は名前をお聞きしても?」 「実は、まだ起業段階になっておらず、口約束のみです」  田淵の答えは「口実をてきとうに作ってでもそちらとは提携したくない」と言ってるも同然の答えである。  当然、女もその意味を理解したらしく、「遺憾です」とだけいった。 (こういう人しか周りにいなかったんだろうな、黒田君。だから、信用するのが苦手で、つい手段をとってやりすぎちゃうっていうのも何となく分かるな)  黒田を誑かさんとしていた目の前の女を見て感じた。

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