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第50話――黒田――
「うちに黒田の人間が来てヒロキを探しているらしい」と電話をもらってから、数日。
黒田本社のずさんなリサーチを高笑いする余裕もなく、廣田対策に追われていた。
親会社と子会社で決算書の数字が違う。これだけではどちらの信用性もないので、どちらが真実の数字なのかを確かめるべく、バイトそっちのけで奔走していた。
すると、たしかに廣田の言うように、親会社である社長の決算書は、黒田を嵌めるために作られた偽の数字であることが判明する。
この証拠を手に入れるのには少々時間がかかる。
状況証拠として偶然手に入れていた、廣田の愚言が沢山盛り込まれたあの暴露した日のレコーダーアプリ。
スマホを開いたまま社長室に入ったところから、この物語は始まる。
そして、秘書の愚言から廣田の愚言もバッチリ録音できている。
本来は田淵との会話を録っておこうかな、くらいに考えてインストールしたアプリであった。それだけに、ツキが来ていたのだと興奮する。
廣田の会社の手直しに半年の猶予を貰っているが、手直しする必要のない会社をどう手を付けても結果は同じである。
「後から気付くはずだった決算書の間違いを俺が教えてやったんだ、本社の金を横領することくらいどってことないだろ。社員の給料を上げてやりたいんだ」と交渉にやってきた黒田に言い放った。
数日に渡り会社の書類全てに目を通している時に突飛のないことを言うので、呆れ顔を作ってしまいそうになる。
黒田は呆れた。
(敵対相手に横領させるとか、愚かすぎんか、コイツ。社員の給料あげたいって、横領がバレない程度の金額求めてきやがっても社員全員に行き渡らないだろ)
廣田の会社を出て、本社へ向かう。
横領するために向かうのではないが、こうも会社を往復する毎日で、精神をすり減らしていた。
本社へ着いて、社長室手前には、例の女が今日もビシッと決めて立っている。「連絡は頂いております。どうぞ、中へ」。
ノックをして相手の承諾を待たずに入った。「失礼します」。
「本当に失礼なやつだな」
「性急にお知らせしたいことがありまして」
「ほう、△△会社の方が思った以上に悪かったのか」
「・・・・・・それについてはまだ調査中でありますが、不審な点が見受けられましたので、慎重になっているところです」
「――なるほど」
「その件ではなくて」黒田は神妙な面持ちになって口を開いた。
「廣田社長なんですが、本社への横領を求めらたのですが、これは伝えておくべきかと」
「横領? いくらだ」
「500万でした。ギリギリ不審に思われない額を提示してきたので、廣田社長の独断かと思われます」
「・・・・・・ほう」
固められたカイゼルが動く。
「500万だな。それ以上の金額を下ろされないよう見張っておけ。そして、その証拠をとったら、すぐ返金の準備をしろ、いいな」
「――書類の上では500万入った状態にしておきますか」
「いや、早く気付いてかたをつけたいのでな、今回はそんなに大事にする必要はない」
社長室を後にする。
――一息つく間もなく、女が立っている。
「田淵様が提携をお許しくださいましたよ」
「はい?」
「これから社長に見せるものなんだけど」
ぴら、一枚の契約書を見せられる。
(これは――!?」
後ろには社長室。声を荒げる訳にも行かずに、その書類を取り上げた。
直筆のサインと実印が押されている。
「これで田淵様は我々の会社の一員だわ」
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