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第52話――黒田――

「それでね、秘書さんに契約金の話をする前に、ベンチャー企業と提携するって言っちゃったんだよね」    「だから、黒田君が良ければ・・・・・・起業したら僕のこと使ってくれていいからね」視線は窓の外を向いている。 「――それで、連絡の一本もなかったことについて、説明はないの?」  田淵の話を耳に入れた上で、黒田は一番気になる点をついた。 「キレちゃうと思ったからだよ。問答無用で。話し合いをして対応を決めるっていうルールがあれば、お互いに落ち着いて話ができるんだろうけど、黒田君は、僕のこと心酔してくれてるじゃん?」 「・・・・・・否定はできないね」 「へへ、ありがとう」 (可愛い――) 「だからね、なし崩しに黒田に抱き込まれるわけにはいかなかったんだよ。黒田君、最近張り詰めたままで辛いでしょ。負けるなんて思ってないけど、僕だけ悠々と黒田君から貰った珈琲啜っても・・・・・・ね」  「だから、カメラのヤツいじっちゃったよ。ゴメンね」これも白状してくれた。 「・・・・・・はぁ、俺が冷静でいられたら、ヒロキさんはちゃんと喋ってくれるんだね」 「そうだけど――でも、僕は黒田君がやりすぎちゃって、歯止めが効かないっていうのもね、許す許さないの次元じゃない気がしてる」  窓を閉めて、たくさん風を受けた髪がオールバックのまま留まっている。 「信用ならない人たちに囲まれて育ったら、そりゃ、人間不信になるよ」  「僕は単純に内向的なだけなんだけど」花が綻ぶ柔らかい笑みを溢す。そうして、黒田はあることに気付かされる。 「僕はなるべく、黒田君と一緒にいて、直接気持ちを伝えなきゃと思ってるんだよね――だって、好きだからさ!!」 「・・・・・・」  黒田は自宅の駐車場に停めると、助手席にいる田淵の首を支え自らの顔を近づけた。 「――今夜、えっちのお誘いしたいんだけど」 (ヒロキさんがいてくれるって確信できる間は、ちゃんと話を聞いてあげられる。俺・・・・・・)  啄むようにキスをして、アピールを続ける。  まだまだ色事の雰囲気に慣れていない田淵は簡単に赤面する。  その初々しさを保ったまま、車を降りる。途中、他人から田淵の欲情した表情を見られるのを恐れ、肩を抱いて隠すように歩いた。 「もう、ほんっとに好き、愛してる」    

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