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第68話――黒田――

 深夜2時に帰宅した黒田は、玄関ドアを開けて刹那的に異変を感じた。  (人の気配がない)  「ただいまー」返事が来るように声を張ってみる。夜も深い時間帯にすることではないが、今日はそうする必要があるような義務感に急き立てられる。 「・・・・・・」  革靴を脱いで、堅苦しいスーツからも逃れる。  リビングが暗い。それはそうだ。  動悸を自覚しながら電気をつける。  リビングにダブルベッドを置いている我が家で、深夜にいきなり照明を点けるのは御法度である。 「・・・・・・」  腕に通した時計を再度目視して、2時を過ぎていることを確認してから、田淵の自室をノックなしに開いた。   「・・・・・・」  足早に自室に戻り、PCを起動させる。その待ち時間さえ惜しい。そういえば、今日に限って、靴一足さえ玄関に置かれていない。  ――片付けたわけではないらしい。  ようやっと起動したPCをすぐさま稼働させて、PCログイン履歴を見てみる。  あまりに見る項目が多くて、すぐにはスクロールできなかった。  隠しカメラの管理ファイルがほぼ毎日閲覧されていた。  とくに、最近に至っては毎日だ。  田淵は、抜けているように見せかける術を知っている。相手を油断に落とすことも彼の得意技なようで、黒田は度々それにかかってきた。 「・・・・・・何コレ。俺、また、暴走しちゃっていい感じなの?」  スマホを見ても、黒田の「楽しんでおいで」からの返信はない。  また、連絡を怠ったらしい。  電話を入れてみる。  ――コールが幾度か鳴って、繋がった。 「もしも――」 「もしもしー? あの、ゴメンナサイ。ヒロキ、寝ちゃったから、電話は明日にしてやってくれない? この時間にかけてくるんだから、大した用事でもないでしょ? じゃ、そういうことで」 「ちょ――!!」  一方的な会話で、切られてしまった。 (ヒロキ・・・・・・? 誰にそんな呼び方させてる?)  寝不足も相まって、簡単に負の感情に支配される。 「何、何々何! パソコンで俺がろくに見てないことを慎重に覗いてたとでも!! ――ヒロキさん、前から感じてたけど・・・・・・やっぱり小賢しいよ」  「電話に出た男も、カタコト風情で喋りやがって。こういう時は大体ペラペラ喋れるもんなんだろ!」リビングに戻り、明々とした部屋を繋がっているキッチンから見渡す。  今朝出ていったままの状態で、とくに、怪しい点は見つからない。  よく類は友を呼ぶというが、恋人と自分の特性がもしかして、似ているのではないかと思えてくる。  用意周到過ぎて、気味が悪い。  しかし、黒田も27になり、少なからず余裕がある。  一旦、珈琲を飲もうとインスタントコーヒーがないか、棚を開いてみる。    ひとつの棚から、異常なストック量のお菓子が頭上に落ちてきた。 「ラムレーズン入りのチョコ・・・・・・?」  ここ数年でめっきりと食べなくなったそれは、以前よりも増量して備蓄のように居座っていたのだ。  食べる量より、買う量が多くバランスが逆なのが分かる。 「ヒロキさん、甘党になったんだ――?」 (・・・・・・? あれ、ん? ちょっと待って。俺、最近のヒロキさんの変化、何も――知らない)

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