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第78話
「ちょっと・・・・・・そろそろ限界」田淵は下半身に全集中を注ぎ込んで、漏れ出すのを堪えている。
「なんで、リビングさえ出られない長さで足枷を作るかなっ・・・・・・」
尿意をもたらしてベッドから起き上がれば、足首にアンクレットのように嵌められた足枷に気付いて、昨夜の失態がみるみる想起させる。
だが、今はトイレが先だ。
小説や漫画のような展開ではあるが、幸い、いかにもな鎖で繋がれているわけではなかった。お飾りとして用いられるネックレスやブレスレットのチェーンで、田淵が無茶をすれば切れるであろう細さだった。
それがフローリングと擦れて、若干の鎖感を出してくるがリビングを抜けるドアへ一直線に歩く。
ドアノブに手がかり開くところまでは良いが、そこから先へ歩みを進めようとすると、ぴんと足枷のチェーンが張ってしまった。
「嘘でしょ?!」とともに、尿意は責め立ててくる。必死の攻防を体の一部で繰り広げられている。
(どうする・・・・・・このチェーン、切っちゃうか?)
拘束力の弱い細いチェーンで監禁しているつもりであるところが、また、黒田らしさを感じる。
だからこそ、このチェーンが重く太い権化となって、引き千切ることができない。
だが、下の洪水も待ったなしだ。
「早く帰ってきてよ・・・・・・っ」
「ただいま」黒田が帰宅したらしい。
田淵はご主人の帰りを待ちわびた飼い犬の如く、足枷の許容範囲いっぱいまで伸ばしきって待機する。
「ヒロキさん起きて――わぷっ」
半ば突進する形で黒田に抱きついて「範囲、せめてトイレまでにして!!」と懇願した。
「トイレ漏れそうなの!!」
「ああ、ごめんね。すぐ戻るしいいかなって、短めにしちゃった」
「うぅ、早くとって」
「――いいんじゃない?」
「へ?」
「ここでしちゃえばいいんじゃないかな」
「・・・・・・なんで?」
思わず顔をしかめる。
「俺、後始末も全然やるし」
「だったら、素直にトイレに行ったほうが手を煩わせないと思うんだけど」
「むしろ、やりたい」
「黒田君、冗談きついって。僕もう、32よ?」
「じゃあ、そのチェーン切って行くと良いよ」
「・・・・・・いいの?」
「俺はとってあげないから、どうしてもトイレに行きたいんだったらやるしかないよ」
「ほら、行きたいんでしょ?」黒田は田淵に向けたことのない凍てついた視線をやる。
「黒田君っ――」
「早くしないと、漏れちゃうよ」
「・・・・・・っ!!」
ディアゴから借りたままのパンツの股ぐらが、じんわりと濡れていく。
「時間切れのお漏らしか。どっちつかずだな」
「ま、漏れちゃったものは仕方ない。そのズボン、いつまで履いてるの。早く脱ぎな。処分するから」脱衣場の方へ消えていった黒田は、失禁の処理をする気でいるらしい。
「いいよ・・・・・・っ、自分で片付けるから、黒田君は仕事に行っていいよ――」
「・・・・・・させてくれないの」
「うぅ、なんでしたがるんだよ・・・・・・」
「え? 当たり前じゃない? 俺は下の世話までできるんだよ。そんな彼氏を放っといて、性欲処理に他の奴使うだなんて――いや、何でもない」
「とにかく、ソレ。脱いでよ。いつまでも履いてたらばっちいよ」黒田はしゃがみこんで、脱衣を促す。
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