「･･････」 　切られた通話を閉じて、田淵の部屋からPCを持ってリビングに戻った。 （浮気されるような状況になぜなったのか･･････いや、浮ついてはないかもしれないんだった) 「はい、パソコンね――て、すごいチョコ食べてるね」 「んー、今じゃ僕の大好物第1位なんだよ」 「え、そうなんだ」 「知らなかったでしょ」 「･･････」 　肯定したくないが否定もできず、結局が黙りこくることでしか意思表示が出来ていない。自身の幼さに苛立ちを覚え、「そんなことないよ」とだけいう。 「僕、チョコの食べ過ぎで、太ってもいるんだよ！」 「え、そんな風には見えないし、いつも通り軽かったけどな」 「出会った当初から5キロ増量しております･･････恥ずかしいから言わなかったけど」 「じゃあ、筋肉が脂肪に変わって、多少の肉も上乗せされた感じなんだろうね」 　「どれどれ」黒田は口内の甘さを珈琲で中和させる田淵の腹を掴んで見た。 「わ、前と比べるとぷにぷにしてる、かな？　ま、一般人とは比べるまでもなく、だけど」 「ふふ、そうであります！　僕はおじさんになったのであります！！」 　「そして、幼いであります！！」敬礼のポーズを決めて、自虐する。 「どうして？」 「そりゃ、聞き分けのできない子どもであるからであります！」 （そのキャラで進めるの？） 「そっか、聞き分けないんだ。それはどうしてそう思うの？」 　廣田の本質を見抜くこと、原因を探ること、言われた2つが脳内を浮遊している。 「･･････僕が、最初に起業しちゃえ、といったであります。もちろん、軌道に乗るまでの多忙は覚悟していたであります」 「うん、うん、それで？」 「だけど、予想に反していたであります。それはもう、僕が寂しくて、黒田君の好物だったものを食べて気を紛らわせていたら、僕の方がハマってしまうくらいには」 「･･････そうだったんだ」 「それに耐えるべく、LINEじゃなくて、置き手紙をするようにしたであります。多少の寂しさが伝わればと思って」 「･･････」 「だけど、黒田君は日を追うごとに忙しさに拍車がかかって、いつしか、僕が起きるより先に家を出て、僕が寝てから家に帰ってくるようになって。――仕事を始めていて良かったと思うことが増えたであります」 「･･････」 「･･････。寂しさを埋めるため、自己実現のため、仕事をしているとそれは実現されるし、寂しさも紛れたであります。――だけど、ディアゴと出会って懐かしさを覚えたであります」 　「勿論、教室で出会ったのが初対面であります」田淵はいう。 　黒田は生唾を何度か飲み込みながら、話を聞く。もう何度も逃げてきたし、自分から話を振ったこともあって、立ち往生するしかなかった。 「それで――過ちを犯したであります。泥酔してよくわからないまま朝を迎えて。何より･･････浮気という点で、浮ついていなかったかと言われると、正直、浮ついていたで、あります」