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第83話――黒田――

「・・・・・・」 「僕は・・・・・・ディアゴが嘘をついたと思っていたとしても、浮気をしていないと否定、できない、です」 「じゃあ、まんざらでもない相手の前でわざと酔い潰れるまで飲んだんだ。――そういうことも加味した上で」 「・・・・・・」  「本当は俺のためじゃなくて、自分が別れたかったのかな? で、俺がいつになく強引で乱暴だから、仕方なく折れて」田淵の口に指を突っ込んだ。 「・・・・・・ヒロキさんは名俳優だねぇ」  ぐにぐにと厚めの舌を押して、人差し指と中指で引っ張り出す。香ばしい匂いが口内からする。 「何、別れたいの?」 「ひ、ひはいまうっ・・・・・・!」 「どう違うの」 「ほ、ほふは、ふほらふんあ、あえっえふうおあうえいあっあ」 「はは、何いってんの?」  「ま、何も言わなくていいよ。ヒロキさんは足枷もついてるだけじゃなくて、仕事なくなったし外出する理由がなくなったからね」しっとりした舌を未だに堪能しながら、ぽそりと呟いた。 「え――」 「俺、今日ヒロキさんの勤めるゼミナールに行ってきて、代わりに辞職願だしてきたんだ。ついさっきまでやりすぎたなーなんて思ってたけど、結果オーライだったね」 「・・・・・・」  「ほ、ほうらっあんら・・・・・・」黒田には理解し難い涙を静かに流していった。  そして、1周間大人しくも甘えるようになった田淵に、不審さを覚えずにはいられない。それこそ、奪ったままのスマホを返せとせがむこともないのだ。  次の企てた計画はどんなことであるのか、探りようもない。互いに同じ家にいながら、隠しカメラを通じて監視したところで、さっき視覚で捉えた行動と同じ行動をとるカメラ越しの2人。  もう、田淵を手放しで見ていることができないでいた。  引き返せないところまで来てしまって、廣田の警告がようやっと意味的に処理された。  拗れていないようで、完全に拗れているこの関係を戻すタイミングは、とうの前に通り過ぎていることを、田淵を見て思わざるを得なかった。  「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」。ついには、隠しカメラの電源を切られて、黒田が仕事復帰した隙を見計らって、田淵は出て行った。  ――お世話になりました――と置き手紙を残して。

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