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第85話――廣田――
「いつも見回ってるだけなんだけど、今日から社員の一員として働いてみるわ」
そう社長が言い出して、トントン拍子で人事部との掛け合いが済んで、実際に働き出した。いわずもがな、ディアゴ・カルスコス・ジェーンという男の見張りである。
黒田の回し者である以上、手放しで放っておくことは危険だ。しかし、黒田の憔悴しきって1週間を終えてきた様子を見れば、田淵との関係悪化したことが一目瞭然であった。
だが、聞くことも躊躇われて、彼の言うまま人事部に連絡したり、社長としての仕事を寄越したりして、会社に缶詰にさせていた。
社員の中では有望な社員として重宝されているようだが、その会社を取りまとめて経営しているのは、紛れもない有望だった黒田だ。
廣田は社長室で通常業務をこなす傍ら、ディアゴ・カルスコス・ジェーンについても調査を進める。
簡易的な社長室であっても長の席に座ることはせず、接待用のソファに座り込んで、書類とPC画面をにらめっこする。
「やっぱ、内情は現場で聞くが手っ取り早いかぁ」深く座り直して欠神した。
ある程度の業務が終わり、黒田の様子を見に行くとにした。
黄色い声というのはいやに耳に入ってくるもの。とくに、劣等感を抱いていた相手のものだとすれば尚更。
学生時代によく聞いた声だと思いつつ、部長にコンタクトをとる。
「柿下さん、最近派遣が入ってきたと噂を耳にしたんですが・・・・・・アレですか」
無論、黒田のことを指す。
「ええ、廣田副社長。教える事が何もなくて助かってるんですよ! でも、他の社員が必要以上に頼るものですから、作業効率が下がるんじゃないと危惧しているところなんです」
「なるほど、使える奴なんですね」
(そりゃ使えるだろうよ)
「ほら、あの男が一番黒田に仕事を聞いてるんです。同じ中途組という意識があるんでしょうね」部長がその男に視線を送って示唆する。
(ディアゴ・・・・・・も社長と分かって接触してるのか? それとも単なる仲間意識からなのか・・・・・・)
黒田に書類を持って仕事を聞いているディアゴを見ていて、言い知れぬ不審感を抱いた。
廣田の目線に黒田も気付いて、ばち、と視線が交わる。
それも一瞬であったが、「中途組で仲良くなるのは特段悪いことではありませんし、少しでも打ち解けるのが早くなればいいなと思ってるんで、様子を見ながら仕事の分配をお願いしますね」と黒田から伝達されたようにいう。
「了解です。というかそもそもディアゴに関しては、黒田グループ本社勤務だったらしいので、できないわけないんですけどね・・・・・・どうしたもんだか」
「それは俺も感じました。仲良くなるための手段であるなら、黒田君次第で終わるかなと思いますし、何事も様子見でしょう」
「そうですね」
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